インフラ危機① 進む老朽化、足りない人手
中央
陥没事故を受け、全国の自治体は下水道管の緊急点検を行った。
1月28日に埼玉県八潮市で発生した道路陥没は、日本中に衝撃を与えた。事故は下水道管の老朽化に起因するとされ、周辺では最大120万人が下水の使用自粛を迫られた。対策を議論する国の有識者委員会で、座長を務める家田仁政策研究大学院大学教授は「激甚災害に相当する重大な事態だ」と指摘し、インフラマネジメントの在り方を転換する必要性を説いた。
事故は県道の交差点で発生した。直下にある径4・75㍍の下水道管路が老朽化で破損し、地下が空洞化したことが事故につながったとされる。陥没は当初、幅約9㍍、深さ約5㍍だったが、3日間で幅約40㍍、深さ最大約15㍍にまで拡大。下水道管の破損に起因する陥没としては過去最大級の規模となった。
■「笹子トンネル事故に匹敵するインパクト」
事態を重く見た国土交通省は有識者委員会を2月に設置し、全国的な対策を講じることとした。インフラ分野では、2012年の中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故を受け、13年を「社会資本メンテナンス元年」と定め、定期点検を起点に診断、補修へと至るサイクルを確立した経緯がある。委員会の席上、家田座長は「笹子トンネル事故に匹敵する社会的インパクト」があるとの認識を示した。
腐食の恐れがある下水道管は5年に1回の定期点検が義務付けられている。しかし、破損した八潮市の下水道管路は21年に点検されたものの、その際は補修の必要な腐食は確認されなかったという。メンテナンスサイクルへの信頼を守る上でも、点検・診断の在り方を改めて考える必要がある。
有識者委の提言を受け、国交省は3月、大口径で古い構造の下水道管を対象とした「全国特別重点調査」の実施を決定。陥没事故現場と類似の条件の延長約1000㌔を優先実施箇所とし、今夏までに調査を完了する。これを含めて1年以内に延長約5000㌔を調査し、対策を講じる。調査・改築する地方自治体向けに初弾の予算として、合計144億円を措置した。
■下水道だけにとどまらない課題
有識者委では今後、下水道以外のインフラも射程に入れて議論を深め、さらなる提言につなげる。インフラの利用人口が減少する地方での修繕・再構築の在り方や、自治体の技術職員不足、施工を担う建設業者の担い手不足など、山積する課題に共通するのは、人口減少・高齢化がますます深刻化するこれからの日本で、メンテナンスがどうあるべきかというテーマだ。
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八潮市の事故で陥没に巻き込まれたトラックドライバーの安否は、2カ月以上たった今も不明のままです。足下が前触れなく崩落する事故の発生は、国民の生命・財産を守るインフラへの信頼を揺るがしかねない事態と言えます。全国のインフラ管理者、そして整備・維持管理を担う建設業者が、この不安にいかに応えるべきかをテーマに連載します(毎週金曜日掲載)。