迅速に悪条件も対応 スパイダー普及拡大へ

四国

急斜面で作業するスパイダー

 4輪多関節型作業機械の「スパイダー」をご存じだろうか。4本の足を駆使して急斜面や狭隘(きょうあい)な作業道、複雑な地形を自走走行し、アーム部分をバケットやグラップルソーなどのアタッチメントに取り換えることでさまざまな作業を行うことができる。  全国的に自然災害が、頻発・激甚化する中、建設業は災害復旧活動において真っ先に道路啓開作業に当たらなければならない。国土交通省国土技術政策総合研究所・社会資本施工高度化研究室(国総研)の杉谷康弘室長は、「独特の動きができるこの機械は、迅速さや悪条件での対応が求められる道路啓開作業などで、新しい対応手段となる可能性を秘めている」と期待を寄せる。  ところが先の能登半島地震の復旧現場でスパイダーを見かけることは無かった。なぜか。杉谷氏は「認知不足と実績の無さ」を挙げる。「危険を伴う災害現場で、慣れない機械を持ち込むことには慎重さも必要。存在の認識と性能を理解した上で、使いどころを見極めなければ災害現場に投入する判断には至らない」と現状を話す。  現在、国内で保有されているスパイダーは20台程度。加えてオペレーターも日本には15人ほどしか存在せず、実績や社会的認知度が乏しい。そこで、スパイダーを保有する徳島市内の成島建設ら4社(成島建設、カタギリテック、喜多機械産業、サナース)が4月1日、日本スパイダー協会を発足させた。会長を務める五島満氏は約10年前にスパイダーの操作ライセンスを取得した日本人第1号のオペレーター。これまでも全国各地の建設現場でスパイダーを操作してきた。  五島氏は「組織として活動領域を拡大し、認知度向上、普及拡大に努めたい。さらにはオペレーターの育成・訓練にも努め、社会貢献の一助を担っていきたい」と意気込みを語る。オペレーターの育成や訓練には会員の喜多機械産業のトレーニングセンターを使って、スパイダーの保有の有無に関わらず指導・育成し、日本での操作ライセンス発行を目指すとしている。  スパイダーはスイスのメンツィムック社の製品。特徴は、急斜面や複雑な地形を自走走行することで進入路設置など仮設工事を要さず、早期着工と工期短縮などにつなげることができる。また水陸両用で、アタッチメントの交換により多様な作業が実現できることなど。  杉谷氏は「国総研でも1台保有し、性能を検証している。建設機械の選択肢が増えることで、災害時の多様な条件での対応力の強化になる。一方でオペレーターの育成、技能向上はその前提であり、重要課題と認識している。民間における育成の取り組みにも期待したい」と思いを語る。  (徳島支局=荒尾匡俊)