随意契約「躊躇すべきでない」
中央
不正防止や競争を重視し、競争入札の体裁を整えることに行政コストが割かれている。随意契約や指名競争入札を採用できるはずなのに一般競争入札を採用し、結果として入札の不成立を招いてしまう。独占禁止法が専門の筑波大学の楠茂樹教授は「発注者に形式的な競争入札を強いている今の制度が、むしろ不正を招いているのではないか」と問題視する。
公共工事の入札に応札者がなくて最も困るのは発注者であり、入札の不成立によって事業が遅れ、損害を受けるのは納税者である国民だ。楠教授は「発注担当者が真面目であればあるほど、入札を成立させるために悩んでしまう。不成立を避けるために建設業団体や実績ある企業に応札を呼び掛ける。優良企業に受注してもらおうとする」と話す。
ただ、実際には「贈収賄などで私的利益を追求したわけではないのに、事業の執行を重視した発注者が手続き上の逸脱行為で入札不正を問われるケースが増えている」という。こうしたことの要因に独占禁止法や官製談合防止法で「守るべき競争とは何か、公正な入札とは何かということが明確でないからだ」と問題提起する。
1者応札が予想されるのであれば、随意契約を採用すればよいはずだが、「随意契約の使い勝手の悪さが、発注者が競争入札にこだわる理由の一つになっている」。会計法令で例外的に位置付けられている随意契約は、競争入札が不成立になったり不落が続いたりすれば採用できるが、その際に予定価格などの当初の条件は変更できない。
少額随契のように、基準額が定められていると発注者も躊躇なく採用できるが、そうでないケースでは随意契約を採用する理由を説明できず、形式的な競争入札を採用し、応札者がいないために不成立を繰り返す。
楠教授は、「発注者が随意契約を採用するまでのプロセスを整えるべきだ」と主張する。例えば、地方自治体であれば、首長が随意契約を採用する理由を説明し、ある程度まとまった件数について議会に特別な許可を得られるようにするなど、例外的な手続きを定める必要があるという。
昨年6月に改正された品確法には、事前確認公募型の随意契約を新たに位置付けた。事前確認公募型は、技術・設備・体制からみて受注者が極めて限られた場合、随意契約を前提に応札者を公募し、応札者がいないことを確認した上で随意契約を結ぶことができる。
楠教授は事前確認公募型によって「不成立が続かないと随意契約を採用できない不合理を解消できるかもしれない」と話す。「事前の公募によって競争が成り立たないことを証明できる。発注者にとって突破力のある制度になるのではないか。こうした突破力は品確法ならではのものだ」と期待する。
【略歴】楠茂樹(くすのき・しげき)。京都大学博士。筑波大学人文社会系教授。専門は独禁法、公共調達法。国土交通省中央建設業審議会会長代理、同省公正入札調査会議会長。近著に『入札不正の防ぎ方 受発注者が知っておくべきコンプライアンスのリアル』(2024年、日経BP)。