酷暑に備える(1) 6月から熱中症対策義務化

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 職場での熱中症対策を企業に義務付ける、改正労働安全衛生規則(安衛則)が6月1日から施行される。記録的な猛暑となり、調査開始以降で最多の死傷者(休業4日以上)が出た昨夏の教訓から、厚生労働省は異例のスピードで罰則付きの対策を義務付ける。3年連続で30人を超えた死亡災害を減らすため、熱中症の重篤化を防ぐ対策が屋外作業を伴う建設業にも求められる。  熱中症は、死亡災害に至る割合がその他の労働災害に比べると高い。死亡災害の7割は屋外作業で発生しており、昨夏のような記録的な猛暑が続けば、労働災害がさらに増加する恐れが高まる。  厚労省が2020年から23年の4年間に発生した熱中症死亡災害について分析したところ、死亡災害の97%が初期症状の放置・対応の遅れによるものだった。熱中症を発症した労働者の発見が遅れたり、発症していても医療機関に搬送しなかったりすると、熱中症が重篤化し、最悪の場合、死亡災害に至る。  熱中症対策が義務付けられるのは、暑さ指数(WBGT値)28度以上か気温31度以上の環境下で、連続1時間以上か1日4時間超が見込まれる作業。例えば、東京都内では、昨年7月にWBGT値が基準の28度に1日を通して達しなかった日は6日間だけだ。夏場の建設現場の作業は、常に対策が義務付けられると考え得たほうがよい。  具体的には、どのような対策が必要になるのだろうか。改正安衛則で求めているのは「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」の3点だ。  現場の巡視やバディ制の採用、ウエアラブルデバイスの活用などにより、熱中症の初期症状の段階で的確な措置ができる体制を整える。現場の緊急連絡網を作成したり、緊急搬送先の連絡先も事前に把握しておく。  熱中症の恐れがある場合には、作業離脱・身体冷却、水分摂取、医療機関への搬送といった手順も事前に整え、こうした措置を朝礼・昼礼を通じて注意喚起することも求められる。すでにこうした対策を講じている現場も多いが、規制の強化によって対策を全ての現場に徹底し、熱中症の重篤化を防ぐ。 ■夏場の働き方見直す機会に  気温40度を超える異常気象では、重篤化を防ぐことはできても、熱中症の発症自体を防ぐことは難しく、「夏場の働き方を見直すべきだ」との声も強まっている。夏季には現場閉所の時間・日数を増やし、気温の落ち着いた春・秋の労働時間を増やそうという考え方だが、月単位で労働時間に上限がある時間外労働規制や、夏季の現場閉所に合わせた工期算定の見直しなど、乗り越えるべき課題は多い。  ただ、夏季の高温・多湿の環境が収まる気配はなく、屋外作業の熱中症リスクは年々高まっている。公共工事では、熱中症対策に必要なミストファンや空調服などの費用を発注者が事後精算するようになった。ライブカメラなどのICT技術を活用した新しい対策を取り入れる現場もある。規制が強化にかかわらず、まずは目の前にあるこの夏をどのように乗り切るかを考えなくてはならない。