現場のための安衛法(1) 一人親方の労働災害防止

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 5月に成立した改正労働安全衛生法(安衛法)では、「労働者」という文言の多くが「作業従事者」に変わった。改正法が施行される2026年4月以降、元方事業者や注文者は、労働者だけでなく、一人親方などの個人事業者も含む「作業従事者」を保護しなければならない。  労働者ではない一人親方や、同じ現場で資材運搬業・警備業を安全衛生対策の保護対象に追加しようとする動きの発端は、21年の建設アスベスト訴訟の最高裁判決だ。判決では、一人親方に対する国の責任を認め、安衛法の大きな転換点となった。  改正安衛法では、元方事業者などがこれまで講じてきた危険作業や健康障害への対策の対象に、個人事業者を追加。作業に関する連絡の調整や現場での合図・標識の統一、安全衛生教育の実施などを求める。個人事業者にも義務を課し、危険・有害な業務に就く際の安全衛生教育の受講を義務付ける。  改正安衛法成立時の付帯決議には、個人事業者への教育講習費用などが安全衛生経費に適正に価格転嫁されるための方策の検討が求められた。厚生労働省は今後、作業従事者に対する安全衛生教育の指針とともに、安全衛生経費についてのガイドラインを策定する方針だ。  個人事業者の労働災害の実態はどうか。厚労省がまとめた、過去10年間の個人事業者の死亡災害発生状況によると、建設業全体に占める個人事業者の死亡災害件数の割合は、30%前後で推移している=グラフ参照。  24年の死亡災害は、前年比28・8%減の57件で、死亡災害全体の24・6%を占めた。死亡災害のおよそ半数は下請けとして入場している現場での災害だ。24年は、57件中26件が下請けとして個人業者が入場している現場となっており、個人事業者と労働者が混在する建設現場での安全衛生が重要になる。  一方、個人事業者に対して安全衛生対策を強化すると、いわゆる「偽装一人親方」が判明するケースが増えるかもしれない。現在、現場によっては、偽装一人親方と判断されることを恐れて、安全衛生上の指導・指示が適切に行われないこともあるという。  こうした実態を踏まえ、厚労省は3月、元方事業者や注文者に対して、健康状態や、労災対策、作業服・保護具、不安全な行動などについて指導・指示する際の留意点をまとめた。厳格な管理や具体的な指示を行うと、一人親方の労働者性が認められる可能性があり、単なる確認、助言、注意喚起、周知にとどめる必要があるとしている。  改正法の施行後は、元方事業者や注文者は、さまざまな人が働く建設現場の安全を守るため、これまで以上の取り組みが求められそうだ。 ◇  ◇  ◇  5月8日に成立した改正安衛法は個人事業者の保護、ストレスチェックの対象拡大、化学物質による健康障害防止などを強化する法律です。この法律のポイントを解説する「現場のための改正安衛法」を毎週金曜日に連載します。