「権限代行」の適用、さらに拡大 背景に自治体の技術職員不足
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能登半島地震の被災地でも権限代行によってインフラの復旧が進んでいる
本来の管理者である地方自治体に代わり、災害復旧やインフラの維持・修繕を国が代行する「権限代行」の適用範囲が、段階的に広がっている。東日本大震災を契機に活用され始めた権限代行は、大規模災害の復旧に対象を限っていたものの、その後、平常時のインフラの維持や修繕などにも対象を拡大した。こうした背景には、技術職員の減少によってインフラの管理者である自治体の技術力が低下し、平常時の管理も国に頼らざるを得なくなった実態がある。
東日本大震災で被害を受けた自治体管理の公共土木施設を対象として、2011年4月に国の権限代行を認める代行法が成立。2年後の13年には、非常災害に指定された災害を対象とする大規模災害復興法も成立し、熊本地震や東日本台風の被害を受けたインフラの復旧に権限代行が活用された。
現在は、非常災害指定に至らない災害復旧工事にも権限代行が活用できるようになっている。
一方、13年の道路法改正では、老朽化した道路構造物のうち、高度な技術力が必要な修繕・改築も国が代行できるようになり、平常時の維持・修繕・改良工事へと対象が広がった。
権限代行には、管理者である都道府県・市町村の要請が必要で、国交省所管のインフラで見ると、港湾、道路、河川、上下水道、砂防、空港、海岸、地すべり、急傾斜地で代行規定が整っている。
6月22日に会期末を迎える通常国会でも、道路、上水道、空港、港湾の各分野で改正法が成立し、権限代行の活用範囲がさらに拡大されている=表参照。例えば、改正道路法では、道の駅(地方管理の防災拠点自動車駐車場)を国が自治体に代わって改築・修繕できるようにした。
大規模災害を除いて権限代行を適用していなかった空港でも、応急復旧、災害発生時の管理、平常時の改良に権限代行を適用できるようになった。長期間にわたって断水が続いた能登半島地震の教訓を踏まえ、これまで権限代行が適用できなかった上水道も、下水道事業団が代行できる仕組みが整った。
■インフラは広域管理の時代に
権限代行の適用範囲が段階的に広がっている背景には自治体の深刻な技術職員不足がある。2024年4月時点で土木技師のいない市町村は26・0%、建築技師のいない市町村は38・5%に上る。東日本大震災クラスの大規模災害に限られていた権限代行は、自治体の技術職員減少に反比例するように、より小規模な災害や平時の維持・修繕にまで拡大せざるを得なくなっている。
ただ、技術職員の不足する自治体は今後も増加が見込まれるが、権限代行の拡大にも限りがある。民間との人材獲得競争によって、国家公務員の土木職も採用予定数を確保できていない。
通常国会で成立した改正道路法では、自治体が広域でインフラを管理する「地域インフラ群再生戦略マネジメント」(群マネ)を道路管理に導入しやすくする新たな仕組みを設けた。国が権限代行するのではなく、隣接する政令市・都道府県が広域で道路を一体管理できる「連携協力道路制度」がそれだ。技術職員のいない市町村の技術力を政令市などが補うことで、広域で道路を管理する体制を整える。