国土強靱化(1) 実施中期計画の鍵は“自由度”
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南海トラフ巨大地震をはじめ、国難級の大規模災害に備えた施策と目標を示し、必要な事業費の裏付けとなる「第1次国土強靱化実施中期計画」が6月に閣議決定した。自民党の国土強靱化推進本部長として策定に関わった佐藤信秋参院議員は、「生活、命を守るため、今できることを全てやることが重要だ」と訴えた。
国土強靱化に向けた、2018年度から3年間の「緊急対策」、21年度から5年間の「加速化対策」は、政府の公共事業費に国土強靱化のための事業費を別枠で上乗せする予算編成の枠組みとして機能してきた。
これに続く第1次実施中期計画は、改正国土強靱化基本法に基づく初の法定計画となった。佐藤氏はその意義を「国土強靱化に向けた大枠を示したことだ」と述べた。期間を5年間と区切った上で、関係機関が必要な事業費を積み上げ、事業規模を20兆円強とした。
今回決定した計画は「第1次」と位置付け、持続的に計画を見直していくことを明確化。「その間に大規模災害が起これば、計画を見直してもいい。第2次、第3次へとつないでいかなくては」。
自身が国土交通省で策定に携わった「道路整備5箇年計画」を引き合いに、長期構想に基づいて事業を計画的に進める重要性を指摘した。一方で、国土強靱化実施中期計画については「できるだけ自由度を持たせる」必要があるとした。
事業規模の金額を明示せず「20兆円強」としたのは、物価や人件費の上昇に対応できるよう弾力性を持たせるためだ。計画期間中に起きた災害への対応を反映したり、盛り込んだ事業の工程が遅延した際の費用の積み増しも視野に入れる。
「これまでの加速化対策と同じではいけない」とも強調する。従来の強靱化対策のように補正予算でのみ措置するのではなく、「当初予算でも、補正予算でも要求していくべきだ」と述べた。
大規模な公共投資に対し、財政制約の観点から抑制を求める声もある。佐藤氏は「あれもこれも我慢した結果、『失われた30年』とも呼ばれるデフレが続いた」とし、こうした論調をけん制。
最大で約29万8000人を見込む新たな南海トラフ地震の被害想定について、「下手をすれば日本は立ち直れなくなる」と危機感を示した。「今のうちに、できることを全てやらなくては」とも述べ、必要な事業費を徹底して求める姿勢が必要だとした。
発災後の対応では、地方の建設業の足腰が弱っている恐れがあるとし、懸念を示した。「恐れているのは、(災害時に)啓開作業や災害復旧できない『空白地域』が生じることだ」。
国土強靱化対策や、発災後の応急復旧を進める上で「大切なのは働く人」だと強調。高齢化や人手不足で地域の建設業が「お手上げ」になってしまうと述べ、将来の担い手確保に向けて「給料、休暇、希望、かっこいいの新4Kを達成する必要がある」とした。