石綿除去で相次ぐ労働災害 強化すべき化学物質対策
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解体現場でのアスベスト除去作業中の労働災害が相次いで発生している。3月には東京都千代田区の現場で16人の作業員が、5月には堺市の現場で作業員3人が体調不良を訴え、救急搬送された。重体になった作業員もいる。厚生労働省は現在、事故の原因や類似の事故の有無などを調査している。
3月と5月に発生した事故の詳細な原因は調査中だが、どちらも換気が不十分な屋内で発電機を使用しており、発電機が排出した一酸化炭素による中毒が原因とみられている。
ガソリンなどで動く内燃機関発電機は一酸化炭素を排出するため、屋内で使用すると危険性が高まる。ただ、狭隘(きょうあい)な現場や配線ルートが限られる現場では屋内に設置する場合もある。3月と5月の事故は、アスベスト除去作業中だったため、粉じんの拡散防止のためにブルーシートなどで現場を養生する必要があり、屋内の密閉性が高くなっていた可能性が高いという。
また、4月には、大阪市北区でアスベスト除去作業中に有機溶剤を吸い込んだ30代の女性作業員が亡くなり、他に作業員2人が重症になった。アスベスト除去や橋梁などの塗料を剥がす際に使用する剥離剤には有毒な化学物質が含まれており、これに起因する火災や中毒事故が多くなっている。
2020年には、厚生労働省が剥離剤を使用する作業時に講じるべき措置や、労働災害事例をまとめ、注意を呼び掛けていた。この中では、特にベンジルアルコールやジクロロメタンを含んだ剥離剤の危険性を示している。
換気が不十分になる場合は、内部の剥離剤のガス、蒸気などの濃度が高くなるため、排気装置を設け、作業者の暴露濃度を提言させる措置が必要としている。保護具についても、「防毒マスクは破過(はか)して中毒になる可能性もあるので、送気マスクなどの使用を推奨している」(労働基準局安全衛生部化学物質対策課)。
建設業において、一酸化炭素や有機溶剤などの有害な化学物質に起因する事故は、年間約80件程度発生している=グラフ参照。化学物質による労働災害は、中毒や火災だけでなく、がんなどの遅効性の健康障害も引き起こす。一般的な労働災害と異なり、健康被害が分かるまでに時間がかかるため、現場で被災していることに気付けないことも多い。事業者は、取り扱いや保管上の注意が書かれた安全データーシート(SDS)をしっかりと確認し、十分なばく露防止措置を講じる必要がある。