読み解く(1) 過去10年の公共工事 応札行動どう変わったか
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この10年間の公共事業は、本格化した国土強靱化事業に下支えされ、安定した投資が確保されている一方、労働力不足と資材価格の上昇に左右され、競争環境に大きな変化が生じている。競争環境の変化は、入札参加者の応札行動にも変化をもたらし、建設業の受注や経営に影響を与えている。
建通新聞社が2015年から24年の10年間に取得した公共工事の落札データは、10都府県で約214万件ある。このうち、工事の落札データ約144万件を対象として、平均落札率、入札参加者数、最低制限価格・調査基準価格の設定率などを集計した。
平均落札率は全てのエリアで緩やかな上昇傾向にある=グラフ「地域別の平均落札率(市区町村)」参照。10年前の15年度の時点で、2000年代に全国的に増加していた著しく低い価格での応札はすでに減少に転じており、最低制限価格や低入札価格調査基準価格などの制度は一部の市町村を除いて整っている。地域差はあるものの、全ての地域で平均落札率は90%を超えている。
一方、入札件数は20年度を境に減少に転じた。政府の公共事業予算は国土強靱化事業が本格化した18年度以降、当初予算・補正予算の合計で8兆円台で推移している。公共事業予算の規模が大きく変動しない中で、人手不足に起因する労務費の上昇、ロシアのウクライナ侵攻を契機に始まった資材価格の上昇により、15年度と比べて物価上昇率は30%近い。物価上昇に伴い、1件当たりの落札額が大型化する傾向も進む。
物価上昇は、公共工事を受注する企業の利益を圧迫している。建設業情報管理センター(CIIC)のまとめによると、経営事項審査の受審企業の売上高営業利益率は15年度に1・08%だったが、19年度までに2・26%まで上昇。ただ、20年度以降は低下傾向に入り、23年度には0・70%と1%を切った。スライド条項を活用した契約変更も一部の発注者では十分ではなく、予算と落札率が横ばいの傾向にある中で、受注者は適正な利益を確保できていない。
政府は今年6月、今後5年間の国土強靱化事業の裏付けとなる「第1次国土強靱化実施中期計画」を閣議決定した。事業規模を「おおむね20兆円強」としたこの計画により、公共事業予算は全国的に過去10年を上回る規模となる公算が高い。
予算の増加に反し、建設業の人手不足はさらに深刻化することが懸念されている。資材価格の高止まりや厳しい若年層の採用に加え、全ての団塊の世代が後期高齢者となって大量退職する「2025年問題」が目前に控える。需要の増加と労働力の縮小が、これまで以上に各企業の応札行動に影響することは確実だ。
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建通新聞社の発行エリアである東京、神奈川、静岡、中部(愛知、岐阜、三重)、大阪、四国(香川、徳島、愛媛、高知)、岡山の12都府県で蓄積した過去10年間の落札データを分析する「読み解く 200万件の入札データ」をきょう24日から連載します。連載は毎週木曜日に掲載します。