名古屋市 2025年暦年上半期 受注ランキング

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名古屋・横浜・大阪の全工事落札率分布と土木工事の落札率分布

 建通新聞社は、名古屋市と横浜市、大阪市の2025年(暦年)上半期の入札結果を集計・分析した。3政令市の工事平均落札率を見ると、名古屋市が91・8%、横浜市が92・3%、大阪市が92・1%で、名古屋市が最下位となったものの、大きな差はない。ただ、名古屋市は落札率90%未満での受注件数が全体の4割を占め、横浜市(同約1割)、大阪市(同6%)と大きな違いがみられた。ここからは、名古屋市の最低制限価格・低入札価格調査制度が、より低い金額に誘導されやすいものであることが分かる。最新の中央公契連モデルをベースとしながらも3市は独自のモデルをそれぞれ運用しているが、その違いがどのように落札率に影響しているのかを検証した。  大阪・名古屋・横浜の3市は、政令指定都市の中でも人口・予算額で上位3位を占める。その3市の最低制限価格・低入札価格調査制度をみると、大阪市は最新の中央公契連モデルにランダム係数をかける形を採用。横浜市は、国基準に準拠した独自モデル(最低制限価格にはランダム係数の設定あり)としている。名古屋市も後述する独自モデルを採用。調査基準価格と最低制限価格の設定範囲は、大阪市が75~94%、横浜市が75~95%で、名古屋市(75~92%)よりも高い上限を設定している。予定価格の公表は、横浜市・大阪市が原則事後公表(両市とも、一部工種や予定価格によっては事前公表あり)で、名古屋市は原則事前公表だ。  名古屋市の最低制限価格・低入札価格調査制度は、工事の最低制限価格・調査基準価格を①最新の中央公契連モデルで算出した理論値②当該入札の平均入札額(予定価格を超過した入札と予定価格の75%未満の入札等を除いた入札のうち、平均±標準偏差の範囲内の入札額により算出)―のいずれかから、より低い金額としている。特に問題なのは②で、価格競争が激しいと低い価格での札入れが重なり、最低制限価格などを押し下げる方向に導きやすい。受注できなくなる可能性ばかりが高まるため、物価上昇局面でも受注を優先せざるを得ず、資材価格や労務費の価格転嫁が進んでいないのが現状だ。  さらに3政令市の落札率の分布を詳しくみると、名古屋市は落札率95%以上の受注割合が2割あり、横浜市(12%)や大阪市(9%)に比べて高い。一方、落札率90%以上の構成比は6割で、横浜市(88%)、大阪市(93%)とは大きく見劣りしている。この結果からは、総合評価など一部案件で各社の見積もりが反映された受注が増える一方、ボリュームゾーンでの価格競争が激しい受注環境が浮かび上がる。  横浜市の入札監視委員会などでは、有識者からランダム係数に対する疑義が提示されているが、名古屋市の現状をみると「ランダム係数の方がマシ」な状況にあるといえそうだ。 【高い不調・中止率 入札参加でナゴヤ飛ばしの恐れ】  また、3市の不調・中止などの比率を調べたところ、名古屋市の競争入札件数に対する不調・中止の比率は11・7%と、横浜市(10・1%)、大阪市(4・5%)の中で最も高いことが分かった。名古屋市の「中止」には「入札参加者なし」も含まれる。不調・中止の多さには、「利益が出ないなら、そもそも応札しない」という企業の心理、入札における「ナゴヤ飛ばし」が隠れている可能性がある。  建設企業は、社会インフラを維持するために欠くことができないパートナーだ。そのパートナーが拠点を維持し、担い手を確保し、ICT・DXなどの生産性向上を進めていくためには、一定の費用がかかる。3市の落札率分布をみると、大都市だけあり、いずれの市も決して高落札率というわけではないが、その中でも名古屋市の落札率分布には課題がみえる。明らかに低い落札率での受注が多い現状を改善し、地域の守り手を育てる環境の整備が求められている。