建設業×資金繰り(1)倒産は過去10年間で最多に

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人手不足に伴う外注費の高騰が資金繰りを悪化させ、倒産を招く例が増えている。(画像はイメージ)

 帝国データバンクのまとめによると、2025年上半期に発生した建設業の倒産は過去10年間で最多の986件となった。コロナ禍の政府の金融支援で倒産が大きく減った21年以降、増加は4年連続だ。資材価格の高騰と技能者の高齢化、人手不足に起因する倒産も目立つ。これまでにない競争環境の変化が、建設企業の経営に変革を迫っている。  近年の倒産件数の増加は、建設不況が深刻化した08年のリーマンショック後とは異なる。当時は年間倒産件数が3000件を超え、上場企業など大企業の倒産も見られた。  一方、今の状況は、倒産件数の増加ほど負債総額は増えていない。業種別に倒産件数を見ると、元請けの総合工事業が前年度比1・6%と微増なのに対し、職別工事業が10・8%増、設備工事業が9・9%増となった。比較的小規模な専門工事業で倒産が増加しているのが近年の特徴だ。  5月に破産手続きを開始したある管工事業者は、自社の人手不足から請け負った工事の外注費がかさみ、もともとの売上高減少が追い打ちをかけ、債務超過に陥った。この会社に限らず、時間外労働規制の適用に伴う労働時間の制約や人手不足により自社の施工力が低下し、「工期の延長や後ろ倒し、外注割合の増加といった悪循環に陥りやすくなっている」と帝国データバンクの担当者は分析する。  特に住宅関連の専門工事業は新規着工件数の減少もあって、資材価格や労務費の価格転嫁を求めにくい状況にある。高齢化した熟練職人の退職増も見込まれ、「賃金を引き上げる余力が乏しい中小建設業の倒産リスクが高まっている」(帝国データバンク)。  そもそも建設業は、資機材の購入や外注のための支払いと、請負代金の入金にタイムラグがあり、資金繰りのリスクとなりやすい。このタイムラグを埋め、手元に資金がないときの支払い猶予や、資材購入に活用されてきたのが手形だ。しかし、資金繰りのしわ寄せが弱い立場の取引先に向かいやすいことや、事務処理の煩雑さを理由として政府は26年度末に手形利用を廃止する目標を表明。建設業界に深く根付いた商慣行が大きく変わろうとしている。  「(資金繰りに)マイナスの影響はあるだろうが、どこまで影響するかは読みにくい」と帝国データバンクの担当者は見る。すでに、段階的に現金払いに切り替えている建設業も多いためだ。ただ、支払い期日を90日や120日と長期に設定する「期日現金」での支払いも多く見られる。さらに、現金は期日通りに支払われなくとも、手形のように「不渡り」にならず、回収リスクはむしろ高まる側面もあるという。建設業にとっては取引先の与信管理が一層、重要になる。  長期的に建設業の資金繰りに影響しそうなのが、金融機関からの借入金利の上昇だ。大手と比べて利益率の低い中小企業ほど、運転資金の調達に伴う金利負担が大きくなりやすい。時間外労働規制で工期が長期化しやすくなったことも、金利負担の影響を大きくする。  対応策としては、借入金の圧縮や、入金までの期間短縮など、資金繰りの見直しが重要になる。外注費が上昇を続ける以上、労務費を適正に転嫁し、賃上げできる環境を整え、自社の施工力を高めることも欠かせない。金利上昇や担い手不足といった競争環境の変化を直視し、企業体質を強化することがこれからの建設業経営に求められる。 ◇ ◇ ◇  本連載では、人手不足や「金利のある世界」への転換といった構造的な社会の変化が、企業の資金繰りを巡る環境をどのように変えるのかを取材します。関連する制度の動向や備えるべきリスクを踏まえ、よりよい建設業経営に向けて企業が取るべき道筋を探ります(毎週木曜日配信)。