大阪市まちづくり特集 横山英幸市長インタビュー

大阪

横山英幸大阪市長

 ―4月13日に開幕した大阪・関西万博が約2週間後の10月13日に閉幕を迎える。万博開催地の市長として期間中、どのような感想を持ったか。  「当初は課題が多々あり批判の声も多かったが、一つ一つの課題に向き合い、解決しながら進めてきた。160以上の国が参加し、その国の人々が集まる会場では時間がたつにつれ、各国間の人間関係や交流、ネットワークが生まれてきた。万博がもたらす良さ、素晴らしさは無限大だと感じている」  「閉幕まで残り2週間となり、会場内でのさまざまな取り組みも最後のターンに入っていく。関係者の皆さまも全力で取り組んでくれており、この半年間でスタッフの熟練度も高まった。ぜひ閉幕までに会場を訪れてほしい」  ―万博がもたらした成果のうち、最も大きいと感じたのはどのようなことか。  「ソフトレガシーとも言える各国との交流が進んだというのは大きな成果だ。大阪市は9月5日に、グレーターマンチェスター(合同行政機構)との姉妹都市提携を締結した。万博を大きな転換点として、大阪のポテンシャルの高さを生かしながらさらなる国際化を進めていきたい」  ―万博で披露された各パビリオンの建築デザインや建築技術、さらにペロブスカイト太陽電池などの新技術を含め、今後これらが社会に実装されていくことに対してはどう期待するか。  「ハードレガシーという点では、パビリオンをはじめとする建築物のデザイン性の高い建築技術が目立った。特に今回の万博では、若手の建築家が設計したトイレやギャラリーなども見どころとなり、これから建築を目指す人やインフラ整備に携わる人にとっても、大きな刺激になったのではないか」  「未来社会に向けたさまざまな新技術も提示された。従来の太陽光発電は海外メーカーが多いイメージだが、万博で活躍したペロブスカイト太陽電池は国産の技術が多く採用されている。都市部にも適しているため、国産の技術を活用した環境対策に積極的に取り組んでいきたい。また、地下水に溜めた熱をビルの空調に使う帯水層蓄熱技術についても、導入を進めていきたい。iPS細胞、自動運転バスといった技術も実務的だ。自動運転バスは人手不足が懸念される中で、国内でも先行して取り組んでいく」  ―万博閉幕後は、会場となった夢洲で第2期区域の開発がスタートする。マスタープランの実現に向け本年度の下半期に事業者選定を始める予定だが、市としてどのような視点やポイントを重視するか。  「万博の理念を引き継ぎ、国際観光拠点として整備を進める夢洲は、大阪のまちづくりの重要な拠点となる。IRと合わせて『圧倒的な非日常空間』を作り上げていくことが大きな目標だ。民間事業者のまちづくりへのアイデアは時代と共に進化し続けているので、これらを尊重し、夢洲エリアを大阪の『ニシ』の拠点として共に考え、つくり上げていきたいと思っている。夢洲の整備には、舟運の活性化も重要なポイントだ。多くのクルーズ船がベイエリアを行き交うことを想像しており、さらなるエリアのにぎわいを期待している」  ―万博の理念はどのように引き継いでいくのか。  「大屋根リングは、多くの方から残してほしいという声が届いている。レガシーの継承という意味で、大屋根リングを一部残置させることを、万博協会や経済団体と現在協議中だ。また、グラングリーン大阪のように、まちづくりで緑を配置することがエリアの価値をより高めると感じている。万博会場の中心にある静けさの森についても、樹木をそのまま残すあるいは移設して残すことを考えている」  ―新大阪駅、十三駅、淡路駅を検討対象地域とする新大阪駅周辺地域では、まちづくりのキャッチフレーズが決まるなど、検討が進んでいる。軸となる新大阪駅で期待される都市機能向上のビジョンはどのようなものか。  「新大阪駅周辺地域のまちづくりは『新しいの、その先へ 新大阪』をキャッチフレーズとし、6月にまちづくり方針を策定した。将来的にリニア中央新幹線や北陸新幹線の停車駅として期待されている新大阪駅はこれまでも大きな役割を果たしてきたが、これからはそれ以上に国土軸の大きな拠点を担う駅となる。都市再生緊急整備地域に指定されたことを踏まえ、新大阪駅、十三駅、淡路駅で連携したまちづくりを進めていく」  「新大阪駅の南口では、まちづくり協議会が2024年に設立され、地権者の方々も参加いただき積極的な議論が進んでいる。新大阪のさらに南に位置する西中島は利便性が良く、『にしなかバレー』とも呼ばれるスタートアップが集うエリアとなっており、自然ににぎわいが創出されている。新大阪と西中島との連携も含めてさらに検討を前進させていく」  ―十三駅、淡路駅のまちづくりに向けた検討も着実に進んでいる。  「阪急電鉄の3路線が乗り入れる十三駅は、非常に高いポテンシャルを持っている。東口では、もと淀川区役所の跡地に図書館機能を持つ複合施設開発が進む他、船着場の開設によってとても明るいエリアに生まれ変わった。これからは、なにわ筋線の延伸により十三経由で新大阪駅へ乗り入れる連絡線ができ、さらに利便性の向上が期待できる」  「淡路駅は現在、阪急京都線・千里線の連続立体交差事業が進められており、その高架下の在り方が検討されている。また、浄水処理機能を維持しながら施設の集約を図る柴島浄水場の跡地で行うまちづくりなど、これから大きく変化が見られるエリアとなる」  ―京橋駅周辺や大阪ビジネスパーク駅周辺、森之宮周辺の3エリアを対象とする大阪城公園周辺地域まちづくりの検討状況などはどうか。  「大阪の『ヒガシ』の拠点となる大阪城東部地区は、現在開発が進んでいる森之宮周辺をはじめ、市内でも非常に重要なエリアだ。森ノ宮駅周辺では、大阪公立大学の新キャンパスが9月24日に開設された。知の拠点ができることで学生が増え、地域の人の流れが変わってくる。中之島や西中島、梅田などのエリアに続き、森之宮は学生が活躍するスタートアップのまちになるだろう」  「京橋駅周辺は、京橋公園のリニューアルやNTT西日本本社によるオープンイノベーション施設QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)の運用などにより、変わり始めているエリアだ。今後は、事業を休止していたJR片町線・東西線の別線地下化事業を26年4月に再開予定。合わせて、広域ネットワークを構築する都市計画道路豊里矢田線の整備を進めるとともに、官民連携による新たな歩行者ネットワークの充実など、地域内の回遊性を図る方針だ」  ―1月28日に発生した埼玉県八潮市の道路陥没事故を受け、インフラの老朽化に対する危機感が全国的に高まっている。大阪市でも漏水事故や陥没事故が発生しているが、再発防止に向けた今後の対応などについてどう考えているか。  「大阪の下水道は敷設が古く、いわゆる太閤下水、背割り下水として整備されてきた中で、老朽化対策を行うことは重要な課題として理解している。これまでも計画的に進めてきたが、埼玉県八潮市の道路陥没事故は重大であり、大阪市としても例外ではないという認識だ」  「今後、水道事業では、リスクの高い鋳鉄管を抽出して計画的に更新を進めていく。下水道事業では、雨量が増えてきていることなどを踏まえ、新しい技術を取り入れた下水道機能を整備するなど、不断の改革に取り組む考えだ。上下水道とも官民の連携を加速させて整備、維持管理を進めたい」  ―万博では地元業者を含む多くの建設企業が携わり、施設を完成させた。また、今後まちづくりを進めていく上でも、建設に携わる企業と行政のパートナーシップが求められる。  「万博の会場整備は大変な工事だったと理解しており、整備に携わった建設会社の皆さまには本当に感謝しているとともに、今回、大阪・関西のポテンシャルを示すことができたと強く感じている。これからハードレガシーを継承し、まちづくりをさらに進めていくには役所だけではできないので、民間事業者の知恵や最先端の技術、設計デザインに関するアイデアなどを提案いただき、まちづくりに生かしていきたい。万博は2週間後に閉幕を迎えるが、その後のまちづくりにもしっかり取り組んでいきたい」 (報道部=太田千愛)