人手不足に立ち向かう建設業界、シングルマザーという新たな戦力
中央
林建設で勤務する原尾さん
「建設業界で人材がなかなか集まらない」「求人を出しても応募が来ない」と悩んでいる経営者や採用担当者は多い。多くの企業は事業の継続・拡大のために、未経験者や女性の採用にも力を入れているが、従来の採用方法だけでは十分な応募者を確保できていないのが実情だ。
こうした課題を抱える企業に対して、建設業で働きたいシングルマザーに特化した人材紹介会社のケンシン(東京都新宿区)が注目を集めている。担当の駒田みゆき氏は、人材派遣会社に勤めていた頃、担当していたシングルマザーの「正社員として安定した仕事がしたい」という希望に応えられなかった後悔から「母親の経済的自立を支える仕事をしようと決心した」と語る。
同社の人材紹介事業には、現在1033人ものシングルマザーが登録。彼女たちの多くは未経験ながらも、「家族の生活を支えたい」「手に職を付けたい」という強い意欲を持ち、採用した企業からはその真面目さやコミュニケーション能力が高く評価されているという。採用企業は離職に対する不安の声もあるというが、同社では「建築施工管理技士」の資格取得を無料でサポートする独自の取り組みを実施。この結果、定着率は85%と高水準を維持している。現在、林建設(大阪府寝屋川市)で活躍している原尾真由子さんは「ケンシンの人材紹介事業を通して、建設業に挑戦するきっかけをもらった。先輩に教わりながら新しいことを覚えていくのがうれしく、毎日やりがいを感じている」と話す。
採用企業は合計最大100万円の「特定求職者雇用開発助成金」と「キャリアアップ助成金」を併用して活用できる点も特徴だ。駒田氏は「紹介料が相殺できるため、企業側の採用コストを大幅に抑えられるwinwinの制度」と強調する。また、採用企業側の働き方に対する柔軟な姿勢もうかがえるという。シングルマザーが長く働けるよう、体力的な負担を考慮して現場管理からCADや営業への配置転換を可能にするなど、企業側の働き方改革が進んでいるようだ。
彼女たちの採用は、建設業の人手不足という喫緊の課題を解決するだけでなく、業界全体のイメージアップや新たな労働力の創出に大きく貢献している。駒田氏は「この動きが全国に広まれば、建設業界の力になれるとともに、シングルマザーの雇用機会創出で生活の安定を支援できる」と話す。日本の社会課題を同時に解決する、まさに未来志向の挑戦といえるだろう。(東京支社ビジネス開発事業部=大西正太)