「夢と誇り」ハード面から実現へ 大西秀人市長に聞く高松市のまちづくり

四国
 2023年に5期目がスタートした高松市の大西秀人市長は、当選時に掲げたスローガン「夢と誇りが持てる世界都市・高松を目指して」の実現に向けて、関係団体らとさまざまな施策に取り組む。中心市街地活性化や民間企業誘致、インフラ施設の長寿命化などの他、建設業界の働き方改革に対する取り組みについて、5期目の3年目を迎えた大西市長に、現在進めている取り組みの状況と今後の方向性を聞いた。(聞き手は報道部=鈴木康平)  ―サンポートと高松市中心部のプロムナード化では、ハード面でどのような事業を進めていくか。  「コンパクトで持続可能な多核連携型コンパクト・エコシティの実現へ、中心市街地の魅力向上につながるハード整備を計画的に推進している」  「特に、高松丸亀町商店街の再開発はその象徴だ。市民や来訪者が歩いて楽しめる回遊性・滞在性の高い空間を創出するため、開放感のあるアーケードの再整備の他、植栽、ベンチ、カフェスペースの設置など、買い物や散策を楽しめる空間が重要となる。併せて、建築物の建て替え・複合用途化を促進し、商業・居住・業務のバランスが取れたまちづくりを支援している」  ―屋島や塩江など観光地の活性化は、「世界都市高松」の実現へ大事な要素だ。  「本市を代表する観光エリアである屋島や塩江温泉郷などの地域資源を最大限活用した、地域独自の魅力づくりがテーマだ。屋島地区では、13年1月に策定した屋島活性化基本構想に掲げた44の具体的施策・事業を検証し、その結果を踏まえ、適切に見直す。実施すべき施策や事業については、引き続き、官民が一体で取り組む」  「塩江地区では17年3月に策定した塩江温泉郷観光活性化基本構想に基づき、塩江道の駅エリア整備などのハード施策と独自コンテンツ提供のソフト施策を連動させ、塩江温泉郷の観光活性化を図る。特にハード面の施策として、塩江道の駅エリアの29年度以降の開業に向けて、道路や橋梁といった基盤を整備する。地域振興施設の整備に当たり、現在はPPP/PFI手法の導入可能性調査を進めている」  ―情報通信関連企業の誘致を通し、高松市の活性化を目指す。  「市外からの企業誘致や市内企業の施設の拡張に対し、各種助成を行っている。また、立地の手続きなどに対しては、ワンストップサービスでの支援を実施中だ。大都市圏の情報通信関連企業の誘致は、地域経済の活性化や税収の確保だけでなく、若者の定住や移住者の増加に寄与する有効な取り組みだと認識している。東京事務所を拠点に、香川県や関係団体と連携を図り、主に東京圏を中心とした情報通信関連企業の誘致に注力している」  「国が基幹産業の一つとして位置づけているコンテンツ産業の振興を図ることで関連企業の集積などが期待される。このため、県と連携して、大都市圏の情報通信関連企業のうち、アニメやゲームなどのコンテンツ産業に関連する企業の誘致にも力を入れている」  「市内では昨年度から、県と共に誘致した、ハイレゾ香川のAI開発用GPU専用データセンターが稼働している。AIを活用したアニメの製作会社など、関連企業の立地につながるよう、誘致活動の中で積極的なアピールを行っていく」  ―機運上昇を図る四国の新幹線誘致について、高松市が果たすべき役割とは。  「四国地域においては、半世紀以上もの間、新幹線が基本計画にとどまっており、現在、四国だけが新幹線空白地域となっている。全国的に地方創生への施策が本格的に進められているが、このままでは整備された地域と、そうでない地域との格差はますます広がる。経済発展や観光振興などの足かせになると強い危機感を抱いている」  「本年度は、四国の新幹線駅の果たすべき役割や既存交通ネットワークに与える効果について整理する。合わせて、本市内における新幹線駅の候補地エリアを選定し、将来的に、活力と魅力ある新幹線駅周辺のまちづくりの調査検討を進める」  「調査内容を基に、今後、高松駅の位置を含めた、新幹線導入後のまちの将来像を示したいと考えている。地域住民だけでなく、香川県やJR四国、経済界などの関係者を巻き込みながら、まちづくりの議論を活性化させる。四国の新幹線の早期実現に向けた、さらなる機運の醸成を図っていく」  ―老朽化したインフラ施設の改修について、どのような方針で進めていくか。  「公共・公用施設の多くは、高度成長期からバブル期にかけて整備されている。老朽化の進行に伴う建て替えが一時期に集中する可能性も高く、財政負担を軽減化し、平準化が必要だ」  「高松市公共施設等総合管理計画などの計画に基づき、施設の状況を見極めた上で、修繕・更新工事の前倒し・先送り、一括施工などで財政負担の軽減化、予算の平準化を図る。積極的なファシリティマネジメントの推進に努めていきたい」  ―次期ごみ処理施設整備の進捗を聞きたい。  「次期ごみ処理施設の整備は、現在稼働している、西部・南部クリーンセンターを集約化して新施設を整備する計画だ。焼却および破砕施設は新設、資源化施設は改造・延命化を見込む。33年度の稼働を目指す」  「これまで、測量・土地造成の基本設計が完了した。本年度は、昨年度に引き続き、施設の基本設計や環境アセスメントなどを進めている。今後、地元関係者や関係機関、コンサルタントと協議を重ね、施設整備工事の着手を目指す」  ―下水道事業の今後の取り組みは。  「埼玉県八潮市で発生した下水道の老朽化に伴う陥没事故や能登半島地震の被災を教訓として、老朽化対策や上下一体型の耐震化を適切に行う必要がある」  「今後は、下水道システムを適正に機能させることが最重要課題。老朽化・耐震対策などの優先順位を検討し、対象箇所や事業内容を精査しながら対策を進める。また、ウォーターPPPをはじめとする官民連携の効果的な枠組みを検討し、下水道事業の安定的な維持管理体制を構築する」  ―教育施設の改築や改修の計画を教えてほしい。  「小・中学校施設は計画的かつ効果的な老朽化対策が必要だ。23年3月に改訂をした高松市学校施設長寿命化計画に基づき、学校施設の改築・整備に反映させてきた」  「太田小学校の校舎改築、花園小学校と植田小学校の校舎長寿命化改修は、いずれも昨年度に実施設計を開始。早ければ26年度の工事が見込まれる。亀阜小学校、玉藻中学校の校舎改築、牟礼小学校、香川第一中学校・桜町中学校の校舎長寿命化改修は27年度までに事業着手する予定だ」  ―香川県農業試験場跡地北側エリアの未利用地活用の考え方は。  「これまで、13年3月に策定した、香川県農業試験場跡地北側エリア整備基本計画を基に仏生山交流センター、交流広場、仏生山駅前公園を整備してきた。一方で、基本計画で示した子育て支援施設、高齢者施設としての利活用を予定していた土地は、現在も未利用地となっている。主に少子化の影響により、地域を限定した施設の誘致が難しいことが要因だ。民間事業者へのサウンディング型市場調査を行いながら、利活用策の検討をしている」  「みんなの病院周辺エリアは、仏生山地区の地域交流拠点に位置付けられており、子どもから高齢者まで多くの世代の方が交流し、新たな魅力を創出できる地域となるよう、サウンディング型市場調査の提案を踏まえ、地元関係者の意見も伺いながら、未利用地の利活用の検討をしていく」  ―庁舎や学校施設などでは空調設備の整備が求められている。  「本庁舎は、竣工後70年間の利用を計画している。現在、45年が経過しており、残る25年間でのイニシャル、ランニングコストを踏まえ一番安価な空調方式を目指す。市役所の業務を継続しながらの工事となるため、可能な限り短い工期が要求される。また、建物の構造に影響を与える改修はできないため、設置する空調設備は現行よりも軽い仕様とする」  「本年度中にサウンディング調査の結果をまとめて、それらを踏まえて方向性を決定し、26年度以降に行う内容を調整していく」  「学校施設については、市立小・中学校の屋内運動場に空調設備を設置する。64校はPFI事業を予定。25年度は、事業者の募集・選定に関するアドバイザリー業務を委託した。26年度に事業者を選定する予定」  「洪水災害時に校区で最初の避難所となる2校については、本年度、空調設備設置の実施設計に着手した。26年度に工事を発注する見通しだ」  ―建設資材の高騰、人手不足など業界の課題に対する施策を進めている。  「工事などの発注に当たっては、建築資材の高騰など、市場の動向を的確に把握し、実勢単価に基づき予定価格を設定している。急激な物価水準の変動により契約金額が著しく不適当となった場合には、インフレスライド条項を適用し、契約金額を変更するなど、適切に対応してきた」  「建設業の働き方改革への対応として、主にICT活用工事の試行導入や週休2日工事の実施、適正な工期の設定、工事関係書類のデジタル化・簡素化に取り組んでいる。引き続き、建設業の人手不足などの課題解決に努めていきたい」  ―ゼロ債務負担行為などの不調対策の制度を導入してきた。  「発注の平準化の推進は、技術者の確保や資機材の効率的な活用により、経営の健全化や入札不調の防止につながる。20年度から市の単独事業について、ゼロ債務負担行為(ゼロ市債)の運用を開始。昨年度からは補助事業についても対象を拡大している。今後もゼロ市債を積極的に活用し、発注の平準化に努める」  ―建設業界の変化に対応するため、高松市職員の働き方改革も必要だ。  「建設業の健全な発展のために、働き方改革の推進による長時間労働の是正の他、休日確保に向けた必要な環境の整備は重要だと認識している」  「本市職員の建設業界の変化に対応する働き方の改善については、工事関係書類の処理の迅速化や監督業務の効率化が考えられる。一例として、24年度から情報共有システムの運用を開始した」  「営繕工事では、一部の工事関係書類の提出やデータの共有などはインターネットを利用して、受発注者間でやり取りをしている。今後、工事写真などの電子納品についても検討していく」