賃上げ進展も「6%」の壁高く 適正発注が施工余力の鍵に
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建設業4団体と中野洋昌国土交通相は9月11日、賃上げと生産性向上の推進に向けて意見交換した=写真。各団体は技能者の賃上げの取り組み状況を説明するとともに、2月に石破茂首相との車座対話で申し合わせた「おおむね6%の上昇」には公共工事の予定価格引き上げなどさらなる環境改善が重要だと訴えた。公共・民間工事の施工に十分な余力があることも確認。団体側からは、円滑な施工には実勢を踏まえた発注が重要になるとの意見が寄せられた。
日本建設業連合会の宮本洋一会長は、会員企業の協力会社に対し、賃上げ状況のフォローアップ調査を11月に実施すると表明。公共工事設計労務単価については「実態調査の結果を反映させる現行方式は、政策的に引き上げる方式へと改めてほしい」と要望した。
全建の今井雅則会長は、会員企業の直傭や下請け技能者について、9割弱の企業が賃上げしていることを紹介。一方、目標とする6%の賃上げができているのは全体の2割程度にとどまるとした。労務費の原資を確保できるよう、「まずは直轄工事で落札率100%になるような施策の検討」を呼び掛けた。
全中建の河﨑茂会長は、会員企業の約8割が賃上げを実施したものの、賃上げ率が6%を上回ったのは全体の1割未満だったとした。「人材の流出を防ぎ、企業を存続させるため」の防衛的な賃上げが中心だと強調。賃上げの原資を得るため、公共発注者に「適正な利潤を確保できる入札環境を早急に整備してほしい」と注文した。
建専連の岩田正吾会長は、労務費の基準を設ける改正建設業法の施行後を見据え、「しっかり賃上げしている会社とそうでない会社を見極め、適正な競争となるよう指導してほしい」と要望。建設Gメンと連携し、適正な処遇の確保に取り組む考えを示した。
生産性向上についても意見を交わした。日建連の宮本会長は「今後5年間で会員企業社員の年間総労働時間を70時間削減」との目標を盛り込んだ計画を年内にまとめる考えを述べた。
全建の今井会長は、29年度までに生産性を9%向上させる目標を盛り込んだ計画を9月24日に決定するとした。ICT施工に取り組む会員割合を85%、電子契約を活用する割合を80%とするなど、具体的な指標を設けて会員企業の生産性を高める。
全中建の河﨑会長は、自治体工事でICT施工の導入が遅れている現状を説明。導入コストの低いICT機器による打ち合わせ、測量業務の省力化など可能な範囲の省力化に取り組むとともに、事例共有を通じて生産性向上に努めるとした。
この他、第1次国土強靱化実施中期計画に基づき、日建連の宮本会長が「これまでの予算額を上回る補正予算の早期編成」を要望。全建の今井会長は初年度分として「少なくとも2兆円を超える公共事業費を補正予算を含めて確保」するよう求めた。全中建の河﨑会長は「ぜひ当初予算に計上を」と求めた。
公共事業費の増額が民間投資を圧迫するという「クラウディングアウト」の懸念に対し、中野国交相は意見交換を踏まえて「施工余力に問題ないことは確認できた」とけん制した。「十分な余力があることは関係各所にしっかり説明する」と述べ、必要な公共事業費の確保に積極的に取り組む姿勢を示した。