「労務費の基準」素案を提示 中期的に重層構造是正

中央
 国土交通省は、改正建設業法に基づく「労務費の基準」の素案を9月18日に開いた中央建設業審議会のワーキンググループ=写真=に提示した。公共工事設計労務単価に歩掛を乗じるという基本的な考え方を示し、職種ごとの具体的な基準値については国交省が決定・改定して公表するとの方向性を示した。実効性確保策も基準の本体文書に盛り込み、中期的には「過度な重層下請け構造の是正」を目指すと記載。素案については大筋で委員の了解を得た。  改正法では、中建審が労務費の基準を作成・勧告できることとし、基準を著しく下回る見積もりや契約締結を禁止する。12月の全面施行を見据え、ワーキンググループで基準案の作成を進めている。  素案には、公共工事設計労務単価に直轄工事の歩掛と必要な数量を乗じ、適正な水準の労務費を算出するという基本的な考え方を記載。職種ごとの個別の基準については、国交省が専門工事業団体を交えた職種別意見交換会での議論を基にワーキンググループに報告し、決定・公表するとし、機動的な設定を可能とする。  基準を踏まえた契約を促すとともに、発注者・元請けの支払った労務費が下請けを経て技能者に賃金として行き渡らせる実効性確保策も基準の本体文書に一体として書き込む方向だ。具体的には労務費・必要経費を明示した見積書の定着や、技能者を大切にする企業の自主宣言制度の整備、適正な労務費・賃金支払いを担保するコミットメント制度の活用がある。公共工事では上乗せ措置として、現行の低入札価格調査などを強化する「労務費ダンピング調査」(仮称)も盛り込む。  実効性確保策を通じ、中期的に目指す建設業の姿も示した。技能者の月給制による直接雇用をはじめとした処遇改善に取り組む企業が優位に評価される環境整備が必要だとした。過度な重層下請け構造の是正も明記した。一連の取り組みを通じ、建設キャリアアップシステム(CCUS)レベル別年収相当の支払いを実現する。  18日のワーキンググループでは、岡山県建設業協会の荒木雷太会長が「小ロット工事に対応した歩掛」の整備を求めた。競争入札が原則の公共工事では予定価格の100%での落札が困難なことを念頭に、「労務費を引き下げさせない方法」の記載も求めた。  日本建設業連合会の相良天章氏は、7月に公表した長期ビジョン2・0に盛り込んだ「今後10年で技能者の所得倍増」との目標を共有し、公共工事設計労務単価について「政策的に引き上げていく方式に改めてほしい」と呼び掛けた。  全国中小建設業協会の土志田領司理事は「このままでは担い手がいなくなる」と危機感を示した。最低制限価格で受注せざるを得ない自治体工事の実態も指摘し、制度的な対応を求めた。  建設産業専門団体連合会の岩田正吾会長は「適正な賃金を支払う事業者が市場で選択される環境整備が最も大事だ」と強調した。