建設業皆保険時代(2) 一人親方を選択する技能者 対策で見えた処遇改善の課題
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社会保険加入対策が進めば進むほど、法定福利費の削減を意図した一人親方化も進むという懸念は、対策の開始前からあった。「職人は独立してこそ一人前」という、この産業に根強く残っていた慣習も手伝い、社会保険に加入した社員ではなく、一人親方という働き方を選択する技能者も、特に都市部では多い。
労働者を使用しない一人親方を対象とした労災保険特別加入者は、2023年度末時点で62万4823人となり、社会保険加入対策が進んだこの10年で50%以上増加している。国土交通省の推計によると、建設現場で働く一人親方は、全ての技能者の15%超を占めているという。
社会保険に加入した場合、企業は社員の給与総支給額の約15%を目安に社会保険料の事業主負担分を支払う。年収400万円の社員であれば、年間60万円を企業が負担することになる。社員個人も給与から同じ金額を負担するため、雇用保険に加入せず、国民年金に加入する一人親方となれば、技能者本人もこうした負担を軽くできる。
社会保険労務士の加藤大輔氏(レイビルド社会保険労務士事務所)は、「これだけ経費が増えるのだから、賃金を下げると考える経営者もいた」と話す。社会保険に加入している企業にとっては社会保険料の支払いを前提に人件費を考えるのは当たり前のことだが、「未加入の企業はそれを考えずに企業を経営してきてしまった」と、こうした考え方が処遇改善の障壁になったと見ている。
技能者本人に選択を委ねつつ、企業が社会保険料を負担しない一人親方として働いてもらう。社会保険加入対策を進めてきた国交省は、適法な一人親方と区別するため、そのような労働者性の高い一人親方を『偽装一人親方』として、規制逃れを目的とした一人親方化の防止策を講じている。
一人親方という働き方が否定されているわけではない。コロナ禍以降、フリーランスに対する法制度も整えられている。建設現場でも、建設アスベスト訴訟の最高裁判決を契機として、個人事業主に対する現場の安全衛生対策も強化されてきている。
ただ、若い世代には、社会保険に加入した社員として、安定した働き方を求める傾向が強い。29歳以下の建設技能者はすでに全年齢層の1割まで低下しており、外国人技能者に対する依存度は年々高まっている。社会保険加入対策によって技能者の社員化と一人親方化という二極化が進んだ今、働き方にとらわれない、あらゆる技能者の処遇改善が求められている。