〈連載〉衛星と国土強靱化 SAR衛星編・上 

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写真①=「だいち2号」が観測した日本の関東地方(©JAXA)

 宇宙から地球を〝見つめる〟SAR衛星が災害対応やインフラモニタリングなど国土強靱化で活躍する場面が増えている。昼夜や天候を問わず地表面を観測できる特長は、実際に能登半島地震の緊急観測でも生かされた。人工衛星の数が増え、広範囲を定期的に観測できるようになる中で、インフラモニタリングサービスを提供する建設コンサルタントもある。SAR衛星の観測態勢が充実していけば、国土強靱化の観点からもさらなる活躍が期待されている。 ■SAR衛星とは  一般的に人工衛星と言えば、搭載されたカメラで地球を観測する光学衛星をイメージする人が多いかもしれない。SAR(合成開口レーダー)衛星も同じ地球観測衛星だが、観測する手法が異なっている。  電磁波の一種であるマイクロ波を飛ばして、地表面に反射した電波を受信。そのデータを地上で処理することで、地表面の状況や地表面が衛星からどれだけ離れているかといった情報が含まれる白黒の画像を得られる=写真①。  これは地殻変動や撮像時点での浸水推定範囲を可視化するのに秀でている。また、SAR衛星が利用するマイクロ波は太陽光の反射を利用する光学観測とは違い、昼夜の別なく、また、電波は雲などを透過するため天候を問わず地表面を観測できるのが特長だ。  日本の代表的なSAR衛星は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用する「だいち2号(ALOS―2)」。通常時は「定常観測」として、日本全土をくまなくカバーする観測データを1年あたり4回分程度取得しているが、災害発生時には要請に基づき被災状況を把握するための緊急観測を行っている。 ■能登半島地震での活用  2024年1月1日午後4時10分、石川県能登地方でマグニチュード7・6の地震が発生した。いわゆる〝令和6年能登半島地震〟だ。  JAXAはそのちょうど7時間後、午後11時10分に日本の上空を周回するだいち2号で能登半島の緊急観測を実施し、観測画像を要請元に提供した。このとき、研究開発していた建物被害推定プログラムで解析も行い、翌2日の午前2~3時の時点で数千戸単位の家屋が被災していると推定した。「昼夜などの時間帯を問わず地表面を観測できるSAR衛星の成果と言えるのではないか」(JAXAの川北史朗技術領域主幹)。  被災状況の確認に当たっては、16年の熊本地震で被災した家屋の一部地域の現地調査結果を基に構築したモデルを活用し、全壊、半壊など家屋一戸ごとの被災状況を推定することができた。現時点では能登半島地震での被災状況は一部の関係機関と共有し、JAXA内含め試行的な活用の段階だ。把握した被害状況は研究開発中のモデルによる結果で、どう展開していくかを検討していたタイミングだったためだ。今はさまざまな関係府省庁、自治体に話をしており、積極的な活用に期待がかかる。  だいち2号を活用しているのはJAXAだけではない。国土地理院も能登半島地震発生後に地殻変動を把握した。1月1日午後11時10分や翌2日12時37分などの観測画像を解析。2日には輪島市西部で最大約4㍍の隆起、また、最大約1㍍西向きに変動した地点があると確認し=写真②、関係者に情報を共有した。その後も継続的に能登半島各地の地殻変動について衛星のデータ解析を行い、1月19日に半島全体の状況を明らかにした。