直轄土木工事で試行 賃金・労働時間を実態調査 賃金ダンピング抑止へ

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 国土交通省は、直轄土木工事を対象に、技能者の賃金支払いや労働時間の実態調査を受注者希望方式で試行する。11月中旬から、全国の出先事務所を通じて受注者に協力を求める。実労働時間の調査手法や、賃金・労働時間の算定方法の確立に生かす。労務費をダンピングする受注行動を抑止し、適正な労務費を支払う企業が不利にならないような受注者の選定方法の検討につなげる。  試行の対象は直轄の土木工事。工事規模などは限定せず、受注者の協力を得られる工事があれば試行する。試行結果によって受注者にペナルティーを科したり、インセンティブを設けたりはせず、あくまで調査方法や結果の算定方法を改善する参考とする。  元請けや上位下請けに対しては、下請け事業者への労務費の支払い状況を確認する。技能者を雇用している下請け事業者には技能者への賃金支払い状況を調べる。技能者の実労働時間も合わせて調査し、公共工事設計労務単価と労働時間に基づく適正な労務費が支払われているか把握する。  実際には、試行対象となる工事から一部の工種を選んで調査する運用となりそうだ。具体的な手順としては、調査対象工種に従事する技能者の日報を受注者に提出してもらい、日付や所属会社、職種、作業時間などを把握。合わせて、実際に技能者を雇用している下請けの賃金情報も提出してもらい、調査対象の工種に含まれる職種ごとの総作業時間や技能者賃金の支払い状況を確認する。入力・提出の手間を減らすため、施工管理ソフトベンダーの協力を得て日報を簡易に出力する機能の整備も検討している。  得られたデータを踏まえ、職種ごとの公共工事設計労務単価に実労働時間を乗じて「支払うべき労務費」を算出。重層請負の各次数で事業者が「支払った労務費」と比べて「労務費達成率」を示す。  また、調査対象の期間中に、技能者を雇用する事業者が支払った平均賃金を労務単価の加重平均で除し、設計労務単価と実労働時間に見合った賃金が支払われているかを示す「賃金達成率」も算出する。  一方、調査の終了時には、発注者から受注者に対し、積算上の作業時間を参考として提示するとともに、達成率なども通知する。受注者からも、積算上の作業時間の妥当性を評価できるようになる。実際の工事では、受注者の責によらない条件で作業時間が積算と合わない状況も多いとみられ、受注者とのやりとりでこうした実情も把握したい考えだ。  実態調査は今後、継続的に実施する。試行を通じて調査方法の構築や算定方法の妥当性を確認し、必要に応じて見直す。技能者の総労働時間や賃金の支払い状況を把握し、受発注者間で可視化することで、賃金ダンピングによらない公正な競争環境の実現を目指す。