防災分野の司令塔「防災庁」 未曾有の災害に立ち向かう

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 2024年1月に発生した能登半島地震は、石川県輪島市や志賀町で震度7を観測、死者・行方不明者は594人に上った。今なお復旧・復興活動が続いている。これを遙かにに上回る被害が想定されているのが、南海トラフ地震だ。今後30年以内の発生率は80%とされ、死者数は約29万8000人と想定されている。こうした国難級の災害に備えるためには産官学民が連携した抜本的な防災・減災対策を講じる必要がある。対策の旗振り役となり、日本全体の防災対策を推進する司令塔として、新たな行政機関となる「防災庁」が26年度中に発足する。 ■国難級の災害へ「本気の事前防災」  発生が迫る南海トラフ地震や気候変動で頻発化・激甚化する風水害の被害状況を踏まえ、石破茂前首相が打ち出したのが防災庁の設置構想だ。24年10月1日に首相就任後、11月には防災庁設置準備室を立ち上げた。  発足式で石破前首相は、「防災業務の企画立案機能を抜本的に強化し、平時から不断に万全の備えを行うことが必要不可欠」と語り、このために「専任の大臣を置いた『本気の事前防災』のための組織が必要だ」と防災庁の意義を強調。「国民を守るという使命感のもと、災害対策をさらに加速させる組織づくりに邁進してほしい」と、職員らに訓示した。 ■現体制は「パンク寸前」  防災庁の設置を進める背景には、国としての防災機能を担う内閣府防災担当の業務運営がパンク寸前という実態がある。  内閣府防災担当は、事前防災に関わる企画・立案・総合調整を担っており、災害が発生した際にはこれらを中断して災害対応業務に専念する。ただ、この発災時の対応は、他省庁の人的応援を得ながら進めている状況。災害対応中に別の災害が発生することもあり、事前防災の実現に向けた体制は不十分だ。  特に大規模な災害となれば、被災地の人員不足など行政のリソース不足や、分野や所管の垣根を越えた方策の実施が求められるなど、課題も数多くある。こうした状況において、各府省庁の持つ能力を最大限に発揮させられる司令塔組織が求められている。 ■有識者会議が報告書 防災庁の方向性示す  25年1月には、防災庁が果たす役割や、求められる機能を議論する有識者会議「防災庁設置準備アドバイザー会議」を設置、25年6月には報告書がまとまった。  報告書では▽防災に関する基本政策・国家戦略の立案▽平時における徹底的な事前防災の推進・加速▽発災時から復旧・復興までの円滑な災害対応の統括▽防災政策推進のための共通基盤の形成―の4項目を、防災庁が実施すべき政策の柱として整理した。防災分野における司令塔となり、国全体の防災対策を俯瞰して産官学民の力を結集させ、日本にふさわしい防災のあり方を検討する。  これらを確実に実行するために、十分な組織体制の確立が求められる。現在、各府省庁が実施している防災対策が、組織の縦割りによって漏れることがないよう、防災庁には専任の大臣を置き関係府省庁に勧告する権限を持たせる必要がある。また、平時から地方自治体や関連団体などと調整できる人員体制や、防災対策を抜本的に推進するために、必要な予算を継続的に確保することが重要だ。 ■設置は「出発点」 想定外への対策検討を  有識者会議がまとめた報告書の末尾は「これまでの災害の教訓を最大限に取り込んだものであるが、南海トラフ地震のような国難級の災害に対しては現状のリソースでは対応が困難になる可能性がある」と締めくくられている。  有識者会議でとりまとめ役を務めた福和伸夫名古屋大学名誉教授は「これまでに発生した災害の規模を超える南海トラフ地震や首都直下地震、現状で想定もできていない災害への対応を、ゼロから考えなければならない」として、防災庁の設置が「出発点」であると語る。防災庁の設置をゴールとするのではなく、政策の見直しや制度改革を重ねて常に対策を高度化する姿勢が求められている。 ■高市新政権が発足 防災庁設置を継続  石破前首相の退任後、昨年10月の臨時国会開会時には、高市早苗首相が就任に当たっての所信表明演説に臨んだ。ここで高市首相は「巨大地震に対する事前防災や発生してしまった災害の復旧・復興は、国として対応すべき最優先課題」とした。26年度に防災庁を設置する前政権の方針を堅持するとともに、ハード・ソフト両面での事前防災を推進する考えを表明した。  赤澤亮正氏に代わり、防災庁設置準備担当相に就任した牧野京夫氏も、「復興庁が蓄積してきたノウハウを生かして、最もふさわしい自然災害への対応を考える」と会見の場で語った。