地下からの危険信号 八潮市の道路陥没事故 当事者意識の醸成、メリハリある維持管理を
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事故発生直後の道路陥没現場(提供/埼玉県)
2024年1月28日に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故の現場では、いまだに復旧工事が続いている。社会の注目を大きく集めたこの道路陥没事故だが、八潮市に限らず、こうした事故のリスクが全国的に高まっている。事故発生後に実施した下水道管路の特別調査では、全国にある延長約75㌔の管路に道路陥没を防止するための早急な対策が必要であることが分かった。下水道管路をはじめとする地下インフラは、潜行目視などの調査が難しい箇所もあり、正確な劣化状況の把握が難しい。地下空間から発信される危険信号をキャッチするために、点検の高頻度化や点検技術の発展が求められている。
■下水道管路の劣化は「想定以上に深刻」
事故発生からおよそ1カ月後の2月21日、国土交通省は下水道の老朽化対策を議論する有識者会議を設置し、初会合を開いた。中野洋昌国土交通相(当時)は「このような事故を二度と起こしてはならない」と語った。有識者会議の委員長を務める家田仁政策研究大学院大学教授は、社会に与えた影響の大きさを踏まえて。八潮市の事故を「激甚災害に相当する事態だ」と述べた。
2回目の会合では、八潮市の道路陥没箇所と類似する条件場所などを対象とした、下水道管路の重点的調査を実施することを決定。調査の結果、優先的な調査箇所とした813㌔のうちの75㌔が、1年以内の速やかな対応が必要となる「緊急度Ⅰ要対策延長」と判定された。家田教授は「想定以上に深刻だ」と述べ、危機感をあらわにした。
■点検の高頻度化、高度化求める
有識者会議は、管路の損傷のしやすさと道路陥没などの事故発生時の社会的な影響の大きさを踏まえた、「点検の高頻度化」と「点検方法の高度化」が必要と提言した。
管路の安全性が低い箇所については、5年に1回よりも多い点検頻度とする必要性を訴えた。点検の高度化では、管路の耐荷力・圧縮強度の定量調査や路面下空洞調査など、複数の異なる調査を組み合わせることで、人やカメラを活用した目視調査では確認しにくい管路の劣化状況を把握するとした。
この他、事故発生時の応急措置を容易とするためのメンテナビリティ(保守性)やリダンダンシー(代替性)の確保も求めている。
■原価割れの料金体系、ごく少人数の運営体制
下水道管路の課題は点検頻度や方法だけでなく、メンテナンスの実施体制にもある。具体的には、点検や更新を実施するための財源や人員の不足だ。
上下水道事業では、地方自治体や一部事務組合などの多くの事業体が、給水原価や汚水処理原価に対する料金や経費の回収率が低い「原価割れ」の状態となっている。特に、下水道事業は、事業者数が多い処理区域内人口が5万人未満の事業体の経費回収率が85・2%という状況。全国平均の96・7%と比べて10ポイント以上の大きな差がある。
同じく5万人未満の事業体で働く職員の数を見ると、1事業体当たりの平均が5人しかいないのが実態だ。こうした事業体の数は全体の74%に相当するため、半数を大きく上回る数の事業体が、ごく少人数で運営していることになる。
この厳しい財政・人的状況の中では、各事業体が必要な更新投資の先送りを判断することも、想像に難くない。また、一定以上の回収率がある事業体でも、必要な投資を控え、見た目上は健全な経営状況を保っている可能性があるという。
■「見える化」で国民に理解を
原価割れに陥っているにも関わらず、低料金のままという事業体が多い要因の一つが、料金改定に当たる利用者の合意形成が難しさだ。公共料金の低廉性を過度に重視する風潮が、現状の事態を招いてしまったとも言える。
有識者会議の報告書では、こうした状況を踏まえ、点検・調査・診断状況の徹底的な「見える化」を進めることで、国民に下水道管路の更新に対する当事者意識を持ってもらうことが必要とした。単なる国民の負担増加とならないよう、下水道区域の見直しや、対応すべき管渠の優先順位設定など「メリハリ」を付けた整備の実施も求めている。さらに、国に対しても、特にリスクの高い箇所については重点的な財政支援を講じるべきとした。
■新たなインフラマネジメントへ
有識者会議は、八潮市の事故を教訓に、下水道以外の他のインフラも含めて、国民の安全確保に向けて「インフラメンテナンスの新たなスタートを切るべき」とした。
このために必要な方向性として整理したのが、下水道管路でも強調された「見える化」と「メリハリ」を付けた整備の実施、さらには点検から整備、改築なども見据えた「総合的なマネジメント体制の構築」だ。この他、建設業の担い手を持続的に確保するために待遇を改善することや、積極的に社会がインフラメンテナンスに取り組むモーメンタム(政治的・社会的な勢い)も必要とした。
