渋谷クロニクル ―過去・現在・未来―(中)

東京

代々木深町小公園トイレ

 渋谷駅ができてから約140年がたった今日、駅周辺エリアでは100年に一度と言われる大規模な再開発が最終段階を迎えている。この大規模再開発は、2002年に東急東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転が決定し、地上に大規模な跡地が生まれることになったのをきっかけに動き出した。05年に渋谷駅周辺エリアが「都市再生緊急整備地域」の指定を受け再開発事業が本格化。12年4月には渋谷ヒカリエ、18年9月には渋谷ストリーム、19年11月には渋谷スクランブルスクエア東棟、渋谷フクラス、24年7月には渋谷サクラステージと、次々に大型の複合施設が開業。約30年で駅周辺の街並みは劇的な変化を遂げた。  再開発を進める背景には、渋谷が抱えるさまざまな課題がある。その中でも一番の難題が地形だ。駅周辺はすり鉢状の地形で高低差があり、谷の部分に主要な鉄道路線や幹線道路が整備されていることから、回遊性は決して高くなかった。例えば、現在の渋谷サクラステージがある桜丘地区は、従来はJRの線路と国道246号に分断され、歩行者の動線を確保できていなかった。しかし、渋谷サクラステージの誕生に合わせ歩行者デッキが再整備され、相互の行き来が容易になった。  また、回遊性を向上させるための試みとして、多層階をつなぐ立体的な歩行者動線「アーバン・コア」や東西をつなぐ上空通路「スカイウェイ」がある。アーバン・コアはエレベーターやエスカレーターに乗り換える動線を確保するだけでなく、広場としての機能も併せ持つ歩行者動線で、地下から地上と多層に渡る駅空間の回遊性が格段に向上する。渋谷ヒカリエや渋谷スクランブルスクエア、渋谷ストリームなどに整備されている。  一方、現在整備中の「スカイウェイ」は、西の道玄坂上と東の宮益坂上をつなぐ歩行者動線。渋谷マークシティから渋谷スクランブルスクエア、渋谷ヒカリエを結ぶ。30年度以降に完成する見込みだ。  23年に公開された映画『PERFECT DAYS』で役所広司が演じる主人公は、渋谷区内の公衆トイレの清掃員という設定だ。作品でたびたび登場するこの一風変わった外観の公衆トイレは、日本財団のプロジェクト「THE TOKYO TOILET(TTT)」によって設置された。現在区内には17のトイレが設置されている。公衆トイレの「汚い・臭い・暗い」といったネガティブなイメージを払拭するため、バリアフリーで誰もが快適に使えるトイレを目指し、隈研吾をはじめとする世界で活動するクリエイター16人がデザインした。  区の佐藤嘉之公園課長は「実際に区内のトイレを担当する清掃員に話を聞くと、TTTのプロジェクトが始まってから公衆トイレ利用者の使い方も良い方向へ変わってきている」と振り返り、新たなトイレ整備を視野に入れる。  次回は進行している大規模再開発「渋谷駅街区計画」を取り上げるとともに、渋谷の将来像を展望する。