公共ホールが減少の一途 文化施設で地域経済活性化

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 日本各地で劇場や音楽堂(ホール)の減少が静かに進み、地域文化の拠点が失われつつある。施設の多くは、1960~80年代に集中的に整備された「市民会館」や「文化会館」と呼ばれる公共ホールで、耐震性不足や老朽化が進んでいる。公演数が多い大都市圏では、イベント主催者による〝ホール争奪戦〟が始まり、地方では文化体験の機会が減っている。 ■財政難が改修・建て替えの課題  文部科学省の調査によると、2024年10月1日時点で、国内にある劇場・ホールは1800施設。前回調査時の21年時点と比べ、3年間で32施設減少した。施設の14・4%は築後50年以上、53・0%は築後30~50年が経過。建築物本体や設備の老朽化が進み、耐震化や設備更新などに掛かる多額の費用が課題となっている。  市民会館や文化会館の設置者である地方自治体は、建て替えや大規模改修の判断を迫られているが、少子高齢化で税収が減り、学校や上下水道といったより優先度の高いインフラの維持管理・改修費も増加している。財政難を抱えている自治体にとって、収益構造が弱く、採算性が低い公共ホールは後回しとなることも多く、結果として休館・閉館を余儀なくされる公共ホールが増えている。 ■採算性が低いと官民連携も困難  地方にあるホールの改修・建て替えの事業手法として、PFI方式など官民連携による事業が考えられる。文科省は、ホールをはじめとする文教施設の整備・運営を効率的に進めるため、PPP/PFIの導入を呼び掛けている。  しかし、公共ホールでの導入は「学校施設や社会教育施設などに比べて少ない」(文科省大臣官房文教施設企画・防災部施設企画課)という。官民連携による整備事業は、事業収益性を重視するため、資材価格や人件費が高騰する中、公共ホールを単体で建て替えるには採算が合わないと考える事業者が多いからだ。  老朽化が原因となり、23年10月に閉館した国立劇場は、資材価格や人件費が高騰したことで、採算が合わないと判断され、PFI事業者を選定するための入札が2回にわたって不調となった。政府は、国立劇場の再整備を「国の責任で早急に行う」との見解を示し、25年9月には33年度の再開場を目指す整備計画を承認。今年3月までに実施方針の公表と入札公告を実施し、27年度に契約を締結する方針だ。 ■不足する2000人規模の中規模ホール  ホールが減少する中でも、特に大きな問題として浮上しているのが、収容人数2000人規模の中規模ホールの不足だ。中規模ホールは、全国ツアーを行うミュージシャン、クラシック公演、著名人の講演会など、多様な用途に対応できる規模で、地域から見ると汎用性が高い。しかし、設備更新の難しさや運営赤字への懸念から、この規模のホールは減少の一途をたどっている。  首都圏でも、東京文化会館(東京都台東区)や神奈川県民ホール(横浜市)など、人気の高い中規模ホールが相次いで大規模改修に入り、休館。イベント主催者によるホール争奪戦が激化している。  ライブ・エンタテインメント産業の発展を目指し、調査・研究に取り組むコンサートプロモーターズ協会(ACPC)は、24年のホールの動員数が前年比10・9%減の1621万9000人になったとの調査結果を公表。動員数減少の原因が2000人規模のホール減少にあると分析している。 ■活況呈す大規模アリーナ  中規模ホールが不足する一方、収容人数1万人以上の大規模アリーナは増加傾向にある。近年では、横浜・みなとみらい地域の「Kアリーナ」や名古屋の「IGアリーナ」など、新アリーナが続々とオープン。こうしたアリーナは、音楽ライブやスポーツイベントを軸に採算を確保しやすい。商業施設との複合開発で収益構造が強固になるため、開発資金に対する投資も集まりやすい。  ACPCの調査結果では、24年にアリーナで開催された公演数は前年比24・5%増の2679公演、動員数が31・2%増の2189万8000人と拡大している。  ただし、アリーナは席数が多すぎて運営が非効率になるだけでなく、講演会やクラシック音楽のような繊細な音響設備もない。その結果、使いやすい中規模ホールがなく、公演を誘致できない地域が生まれ、文化体験の格差が広がっている。 ■文化体験の地域偏在の是正へ  ACPCによると、24年に開催された全公演のほとんどが大都市圏で開催されており、全公演の32・9%の開催地は東京都だった。21年の社会生活基本調査によると、東京都に住む15歳以上の人のうち、過去1年間で演芸や演劇、舞踊を鑑賞した人の割合は12・8%で、全国平均の約2倍だ。  こうした状況に対し、文化庁は、地方での演劇や音楽の鑑賞機会を増やし、文化体験の地域偏在を是正する取り組みを開始する。公共ホールの設置者となる自治体や指定管理者と、実演芸術団体を連携させ、地方での継続的な公演を条件とする覚書締結を支援。地方での公演にかかる費用の一部を補助する。26年度には20件の事業を採択し、採択劇場の集客数を10%増加することを目指している。  文化庁は、地方の公共ホールの複合施設化などを進め、文化施設を適切に維持することが、「地方創生の重要な柱になる」と見ている。首都圏の公共ホールが不足する今、地方のホールの維持管理を適切に行い、公演数を増やすことで、地域住民が高品質な公演に触れられる機会を創出。公演を観に来る観光客の流入を増やし、飲食や宿泊、交通機関など、地域への経済波及効果にもつなげる考えだ。