標準労務費が変える競争環境 専門工事に問われる「強み」

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 建設産業専門団体連合会(建専連、岩田正吾会長)が建設業界内外の有識者を招き、11月13日に開いたシンポジウムでは、1カ月後に迫った改正建設業法施行に伴う、専門工事業の競争環境の変化を巡って議論が交わされた。改正法で著しく低い労務費での見積りや請負契約が禁止されると、労務費ダンピングによる受注は困難になる。討論の参加者からは、独自技術や人材といった強みで付加価値を生む必要性が指摘された。  改正法に基づく「労務費の基準」の作成にも携わった山下PMCの丸山優子代表取締役社長がパネリストとして登壇し、賃上げに取り組む企業が競争上不利にならない運用の必要性を強調した。「正直者が馬鹿を見るような制度には絶対にしてはいけない」と述べ、発注者を含めたサプライチェーン全体に、適正な労務費・賃金支払いの姿勢を求めた。  その上で、労務費の基準が整備された状況で「何で勝負するのか」と提起。成果物の品質やスピードといった付加価値の重要性を訴えた。  中小企業庁の山下隆一長官は、付加価値の向上に当たって、取引先から適切な対価を得る価格転嫁の交渉力が重要になるとの見方を示した。人手不足が深刻化する中、受注者にとって「賃金とホワイトな労働条件が絶対的な条件になる」と述べ、賃金の原資となる労務費を適切に支払わない発注者は「見捨てられる」とした。  現場の働き方を巡っても意見が交わされた。司会を務めたワーク・ライフバランスの浜田紗織取締役は、働き方改革関連法の施行後、高齢者や女性が労働市場に参画するようになったことで就労人口が増加したデータを紹介した。  子どもの送り迎えで建設現場の朝礼に参加できなかったり、介護のために長時間の残業ができない人材であっても、「働き方で(求職者を)門前払いしてしまっては、増えている労働力を活用できない」とし、多様な働き方を許容する工夫が求められるとした。  内閣官房の榎本健太郎感染症危機管理統括審議官は、建設業について「社会に欠かせない誇りある仕事だ」と発言。建設業と同様に現場人材の確保が課題となっている社会福祉分野を例に挙げ、生産性向上には経営者の働き掛けだけでなく、「現場の職員を巻き込み、業務を改善する意識を醸成する」ことが有効だとした。  シンポジウムは動画サイトで同時配信された。視聴者からは、建設業の中核的な業務である現場作業と社内業務を分け、ICT活用により生産性を高める方策を提言する意見も寄せられた。