「労務費に関する基準」勧告 賃金確保へ価格交渉に新ルール

中央
 国土交通省の中央建設業審議会は12月2日、改正建設業法に基づく「労務費の基準」を作成、勧告した。基準を著しく下回る労務費での見積りや契約は、改正法を施行する12月12日以降に禁止され、違反した建設業者・発注者にはペナルティーが科される。ダンピング競争を抑止し、発注者と元請け、下請けのそれぞれの契約で労務費を確保するように商慣行を転換。末端の技能者に賃金を行き渡らせ、将来の担い手確保につなげる。  中建審の総会で楠田幹人不動産・建設経済局長は、担い手の長期的な減少や主要資材の高止まりといった課題を指摘した上で、「見方を変えればこれまでの取引慣行を根本から改め、賃上げ環境の整備や価格転嫁対策を徹底する絶好の機会と言える」と強調した。  基準は請負契約の新たなルールとして、公共・民間工事を問わず、発注者と元請け、元請けと下請けなど全ての請負階層に適用される。2日に勧告した基準は、公共工事設計労務単価に標準的な歩掛と施工数量を乗じて適正な労務費を算出するという基本的な考え方を示すもの。職種別の具体的な「基準値」は、12月上旬に初弾を公表する。  基準は請負契約の新たなルールであると同時に、建設業者が労務費を確保するための価格交渉ツールとも言える。実際の取引では、建設業者が基準を踏まえて現場条件に応じた労務費を見積もり、内訳明示した見積書を作成。注文者と交渉することで適正な労務費を確保する仕組みだ。  これまで材工一体で見積もっていたり、そもそも見積書を作っていなかった建設業者にとっては、商慣行の転換を迫られることになる。  建設業界からは、労務費確保に前向きに取り組む企業が競争上、不利にならないよう、配慮を求める声も根強い。国交省は、建設Gメンによる指導・監督や、処遇改善に前向きな企業へのインセンティブを設けることで、制度の実効性を確保する。労務費をダンピングせず、技術力(歩掛の良さ)で競争する市場を、建設産業の重層下請け構造全体で形成させるとしている。  民間の取引を含めた労務費に一定の基準を設ける法制度の整備は異例の措置とも言える。背景にあるのは、建設業の現場作業を担う技能者数が減少を続け、高齢化が進展しているという危機的な状況だ。  公共工事設計労務単価は2012年以降、13年連続で上昇を続けてきた。この流れを地方自治体の発注工事や民間工事、下請け取引にまで波及させ、さらなる賃金水準の上昇につなげる好循環を生み出す狙いがある。  まずは、公共工事設計労務単価相当の賃金水準を早急に確保し、他産業並みか、それ以上の処遇を実現するとの目標を掲げた。人口が減少する中でも入職者を確保し、建設産業が将来にわたって持続できるようにする。