建設業界が直面する三つの課題 AIG損害保険が提言するリスク対策

中央

山本実弘氏

 AIG損害保険(東京都港区)は12月11日、建設業界が直面する「熱中症」「責任環境の変化」「サイバー攻撃」という三つのリスクに関する報道関係者向け説明会を開催した。同社の建設インダストリープラクティスチームリーダーである山本実弘氏は、「建設業が抱えてきた従来の労災事故リスクに加え、複合的な新しいリスクが経営課題として浮上している」と強調した。  熱中症リスクに関して、6~9月にかけての事故発生件数の割合が大きく、気温は31度から35度のゾーンで発生リスクが最も高まると分析。さらに、熱中症は労災事故だけでなく、判断力低下などから「第三者賠償事故」にもつながるという連動性も確認できたという。安全配慮義務違反での損害賠償額の例として、年収500万円・30歳(配偶者・子ども有)の労働者では、熱中症による死亡事故の賠償額が約1億2000万円、後遺障害1級の賠償額が約2億5000万円にまで上るケースを紹介した。山本氏は、「一般的な補償内容では不十分なこともある」とした上で、「熱中症対策は労災事故だけでなく第三者賠償事故の防止対策にもなる。補償額に関しては、死亡補償で2000万円以上、使用者賠償責任補償で3億円以上を推奨したい」と話した。  また、責任環境が変化し「想定外」の言い訳は通用しない時代になっている。過去の災害経験や科学的知見の蓄積により、従来は「予見困難」とされていた事象も、現在では「予見可能」と判断される可能性もあり、災害対応における注意義務が変化している。対策を講じていない場合に企業責任を問われるリスクが高まっているという。  その一例が、2024年6月19日に施行された品確法の改正となる。この改正では、災害応急対策工事の予定価格の積算に、補償にかかる保険料を含めることが明記された。また、災害応急対策工事を実施する受注者が適切な保険契約を締結するよう努めなければならいという言い方で、努力義務が課された。「これは、国や自治体が保険料を負担する形で、災害復旧作業員を保護する仕組みが構築されたことを意味する」と説明した。第三者賠償責任保険について、通常は天災時に免責となるが、同社は法改正に対応し、防災協定発動時の活動に限り、この免責を外す補償設計を提供している。  また、DX推進やICT施工の導入が進む建設業界は、海外・国内ともにサイバー攻撃の標的となっていることがデータで示されているという。米国の調査機関のデータでは、建設業がランサムウエア攻撃によるインシデント発生状況で第1位となっている。山本氏は、「建設業は、重層下請け構造があり、セキュリティーが脆弱(ぜいじゃく)な下請け企業が攻撃の入り口となり、元請け企業のサーバーに侵入されるという『サプライチェーン攻撃』のリスクもある。DX推進とサイバーセキュリティー対策は同時並行で展開することが不可欠だ」と強調した。