【緊急アンケート】 「マンション転売」抑制へ大手不動産各社が対策

静岡
 新築分譲マンションの購入契約をした後に短期間で売買する、いわゆる短期転売に対する社会的関心が高まる中、建通新聞社は大手不動産各社に緊急アンケートを実施した。各社が所属する不動産協会がまとめた引き渡し前の転売禁止といった対応策をベースに、各社が取り組みを進めていることが分かった。不動産流通業界に協力を求める内容の提案もあった。  ◇ ◇ ◇ ◇  新築マンションの価格は特に都心部で上昇傾向にある。土地代や建築費の高騰、供給戸数の大幅な減少が主な要因であるものの、物件の一部で投機を目的とした購入・短期転売が指摘される。  不動産協会は11月、一般公募による販売物件を対象に、購入目的の確認を従来以上に徹底した上で、登録・購入戸数を制限する他、契約・登録名義の厳格化や引き渡しまでの期間の売却活動の禁止を軸とする取り組みを、会員各社の判断に従って展開することを決めた。  そこで建通新聞社では、不動産協会正副理事長会社であり、先行して対策を検討してきた8社に緊急アンケートを行い、投機目的による購入の抑制策や市場への影響を聞いた。アンケートを送付したのは住友不動産、東急不動産、東京建物、野村不動産、阪急阪神不動産、三井不動産、三菱地所、森ビルの8社で、全社から回答を得た(設問により複数回答を含む)。 市場への影響は限定的か  投機目的による短期転売が市場に及ぼす影響に関する質問には、「あまり影響していない」(1社)「ごく限定的」(2社)「物件の特性にもよる」(1社)「やや影響している」(2社)と回答。都心部で大規模、高額物件を数多く手掛ける各社は、投機的短期転売が市場に及ぼす影響を比較的少ないと捉えているようだ。  短期転売による弊害としては、「価格の高騰」(1社)「実需層の購入機会の減少」(2社)「市場の不安定化」(1社)などを挙げた会社があった一方、「影響は限定的で弊害は確認できない」(2社)とする回答もあった。 協会方針踏まえ独自の取り組みも  投機目的の購入を抑制するための取り組みについては、いずれも不動産協会の取り組み方針を踏まえ各社の取り組みを展開する内容で、以下列挙する。  「一部の物件で引き渡し後5年間の転売禁止と購入戸数制限を実施。2026年1月以降は購入戸数制限、契約・登記等名義の厳格化、引き渡し前の権利移転禁止」(住友不動産)  「購入戸数制限、契約・登記等名義の厳格化など」(東急不動産)  「東京23区とその他自社で指定する物件の地権者住戸なども含む全住戸を対象に、1世帯につき1物件2戸までの購入制限、引き渡しまでの販売活動・名義変更不可を、26年1月以降準備が整いしだい実施」(東京建物)  「一部の物件で申し込み登録戸数に上限を導入。今後、業界団体の取り組みを順守」(野村不動産)  「購入目的の確認徹底をはじめ、業界団体の取り組みを順守」(阪急阪神不動産)  「これまで物件ごとに販売戸数制限などを実施。11月に発売した月島のタワー物件では▽登録・購入戸数の上限制限▽契約・登記等名義の厳格化▽引き渡しまでの売却活動禁止―の3点を設定。今後も同ルールの適用を、首都圏を中心に物件ごとに検討する」(三井不動産)  「東京23区、大阪市と自社が特に定めるエリアを対象に、1世帯につき1物件2戸までの購入制限を設ける他、契約・登記等名義の厳格化と引き渡しまでの売却活動禁止を26年1月以降に導入する。原則、新規販売開始物件に適用」(三菱地所)  「購入目的の確認徹底などの対策を講じてきた(現在、一般公募による一斉販売なし)。今後も協会策定の取り組み方針を軸とした対策を展開」(森ビル) 売却活動禁止案件媒介ストップを  土地の仕入れ、建築、販売時期など今後の事業計画への影響を聞いたところ、「まったく影響しない」(3社)、「やや影響する」(1社)と、将来の事業への影響はほとんどないと見る会社が多かった。また、直近1年における国外居住者の購入割合は、「ほとんどない」(4社)、「5%未満」(1社)だった。  さらに、業界全体で今後必要と思う取り組みを質問したところ、「取り組みの実効性を高めるため、不動産流通各社に対し、売却活動が禁止されている物件の媒介を受けないよう協力を求める」とする意見があった。 外国人が保有する不動産実態把握へ  11月に入り、国土交通省は「不動産登記情報を活用した新築マンションの取引の調査結果」を公表。それによると、24年1~6月に保存登記された東京23区の新築マンションにおいて、購入後1年以内に売買された〝短期転売〟物件が1290戸(9・3%)あった。  このうち、国外に住所がある購入者による売買は17件。とはいえ、今回の調査で、購入者の国籍までは把握できていないのが実情だ。外国人による不動産保有の実態把握に向け、高市早苗首相は不動産の移転登記時や森林取得の届け出時に国籍を把握し、その情報を盛り込んだ一元的なデータベースを構築することについて、26年1月をめどに方針をまとめるよう関係省庁に指示した。国交省はこうした動向を注視しつつ、内容を精査し今後も調査を継続する。  一方、東京都千代田区は今夏に転売規制の導入などを不動産協会へ要請。10月には区内の投機目的でのマンション取引の防止を求める意見書を可決し、国と東京都に対し、特に外国人投資家による短期的な売買を防止するための抜本的な対応を求めた。こうした国や自治体の動向に、「強い関心を持って注視する」(2社)、「引き続き注視する」(4社)と、各社は今後も対策を講じながら動向を見守る構えだ。  新築マンションの場合、契約から引き渡し、入居まで長期にわたる場合が少なくない。契約後の顧客状況の変化によって売却せざるを得ないケースもある。一方、短期の価格変動による差益を見込む「転売ヤー」の存在もあるという。投機目的の購入・短期転売は好ましくない。国や業界団体はこうした動きをできる限り抑制する対策が必要との見解で一致している。