【総力取材】7月3日熱海土石流災害から5年 施設整備と規制の両面で再発防止を 

静岡

発災後の現地(提供/静岡県)

 逢初川の上流の違法な盛土が豪雨で崩落し、27人が死亡し、1人が行方不明になった熱海土石流災害から5年。災害後、国と静岡県、熱海市が復旧工事に当たる他、制度面では国が「宅地造成等規制法」を抜本的に改正して、「宅地造成及び特定盛土等規制法」を施行。住民の安心安全を確保する取り組みが行われている。 ―災害の概要―  現地では2021年6月30日から雨が降り始め、3日午前10時までの総雨量461㍉を記録。盛土完成後の72時間雨量としては最大だった。3日10時30分ごろから正午過ぎまで、逢初川の源頭部を起点に土石流が複数回発生し、死者27人、行方不明者1人、全壊家屋53戸を含む136戸の住宅被害という未曽有の災害が発生した。  逢初川源頭部には07年4月に熱海市へ土の採取等計画届出書が提出された。しかし、その内容とは異なる土砂の搬入、盛土の造成が行われた。3次元点群地形データに基づく、災害前(20年1月)と災害後(21年7月)の地形差分解析によると、源頭部の崩落土砂量は約5万5000立方㍍。このうち約7500立方㍍が途中の砂防堰堤に捕捉され、約4万8000立方㍍が市街地方面に流れたと推定されている。 ―盛土が主因となった背景―  逢初川土石流災害の発生原因調査検証委員会最終報告書によると、逢初川源頭部の盛土は「土が十分に締め固められておらず、緩い状態で土が下部から上部へ積み上げられただけのもの」だったとされる。  盛土の高さが15㍍を超えるときは特別の対策が必要であるにもかわらず、標高差50㍍以上にわたって特別の対策なく盛土がされていた。  1967年と2019年の地形データを比較すると、植生などで誤差はあるものの、逢初川・鳴沢川ともに厚さ10㍍を超える盛土がされている。02~05年の空中写真からは、鳴沢川周辺が造成され、鳴沢川の自然流路は埋め立てられた。09~12年の航空写真では逢初川最上流から崩落箇所付近にかけての埋め立てが確認されている。 ―行政の責任―  甚大な被害を受け、静岡県と熱海市は、盛土造成への行政対応を検証する第三者委員会を設置。報告書では、行政対応を「失敗だった」と断じた。  土地の前所有者は06年、購入した約35万坪の土地のうちまず約8万坪を宅地造成する計画で、07年に土の採取等計画届け出書を熱海市に提出、受理後すぐに着工した。その後、残土処理場としての利用に計画を変更。届け出の土採取計画では、盛土下端には大規模ロックフィル堤体を設置する計画だったが、それを設置せず、林地開発違反の是正のために設置した小規模な転石積土留と丸太土留柵をそのまま利用して残土を上部に搬入した。  伐採届の0・58㌶を超える約1㌶の伐採が確認され、県と熱海市が前土地所有者を指導するも、その後も土砂の搬入が続いた。09年11月、熱海市が前土地所有者に対し、県土採取等規制条例に基づく文書指導を実施。同年12月、前土地所有者は市へ「土の採取等変更届書」を提出するも、行政対応検証委員会は「虚偽申請の疑いがある」と推定している。  重要事項が未記載の土の採取等計画届け出を07年に熱海市が受け付けたため、その後の行政指導や是正措置が行いにくくなった可能性がある。  県と市の連携も十分でなく、報告書では「二度とこのような災害が起きないよう、県と市の連携を強化し、適切な行政対応」ができるように努めることを求めている。  また、静岡県の土採取等規制条例は届け出制で規制が緩く、隣県の神奈川県などの許可制・懲役刑も含む罰則の厳しさと比べて抑止力が弱かったことも問題視された。 ―災害復旧工事―  21年7月20日に国直での砂防工事「直轄砂防災害関連緊急事業」に着手。災害復旧では、狭くて勾配がきつい現場で高度な技術力が求められるため、静岡県知事が直轄砂防施工を要請した。  21年8月13日には、復旧・復興を加速するため、国土交通省富士砂防事務所に熱海緊急砂防出張所を開所した。  渓流には泥状の土砂が大量にたまり、陸路での進入が難しい状況で早期に復旧するため、DXを取り入れた無人化バックホウでの24時間態勢の掘削作業と、ヘリコプターを使った土砂搬出を実施。  21年9月に下流域の緊急安全確保のためのネットロール土嚢の設置を完了、同年10月に既設砂防堰堤までの工事用進入路を造り、同年12月までに流域住民と工事現場の安全を確保するブロック堰堤設置を完了した。  22年3月、新しい砂防堰堤に着手。9月に新設砂防堰堤の本堤を完成させ12月には副堰堤、23年1月には垂直壁も完成した。2月の新設砂防堰堤のコンクリート打設完了を経て、3月13日に新設「伊豆山砂防堰堤」が完成した。  国が直轄で建設した砂防堰堤に関連して、静岡県は砂防関連で、その下流部で係留保全工と、管理用道路1を整備。さらに、堰堤の土砂管理のため、堰堤後方へ続く管理用道路2を建設している。管理用道路2は延長320㍍で、このうち堰堤の後方に接続する延長80㍍を優先的に施工する。砂防堰堤の下方に位置する市道の拡幅工事も、県と熱海市で分担して行う。さらに、逢初川上流部に災害以前からある砂防堰堤などにつながる管理用道路3(市道赤井谷線)を復旧する。 ―同様の災害を防ぐ―  県砂防課では、熱海土石流と同様の災害を防止するため、ハード、ソフト両面での対策を進めている。熱海市内に限らず、県内各地で土砂災害を防ぐための堰堤を整備するとともに、県民に対して、周囲の土砂災害警戒区域や避難所を事前に把握し、いざというときに早めに避難できるように呼び掛けている。  土砂災害発生現場付近には、災害前から砂防堰堤があったものの、災害発生地は砂防指定地からは外れていた。盛土に対して砂防分野で直接対処することは難しいが、砂防指定地に新たな開発の動きがあった際に、他部署や政令市と協力して、衛星画像などを活用して、開発や地形改変の情報を共有する体制を整えている。必要に応じて土木事務所に情報共有して現地確認をしたり、届け出が提出されているかを確かめたりすることで、早めの対処ができるように工夫している。  また、土砂災害警戒区域の「2巡目」の指定を進めている。県は、19年度までに1万8125カ所の警戒区域を指定。区域の周知と早めの避難呼び掛けで、ソフト面での災害防止を行ってきた。  近年の豪雨の激甚化、頻発化を受け、3次元点群データ(VIRTUAL SHIZUOKA)も活用して啓開区域になりそうな箇所を新たに9000カ所以上抽出。今後、現地確認などの基礎調査を行って順次、区域指定する。  同様の災害を未然に防ぐために、ハード、ソフト両面の対策が進められている。 【当時の県熱海土木事務所長に聞く】  当時、静岡県熱海土木事務所で所長を務めていた古屋徹之氏は、建通新聞の取材に応じ、「盛土に起因する例を見ない災害の中、初期段階から組織のトップ(副知事)が先頭に立ち、現地調査を行い、被害者やマスコミへの説明、職員への的確な指示により組織が一丸となってこの災害に対応することができた。これは、危機管理における一つの指針になると思われる」と述べた。  また、災害発生前から発生直後について「3日午前11時頃、雨が小降りになる予報の中、逢初川上流の家屋がのみ込まれるテレビ映像で状況は一変した。職員が現地へ向かっても大量の土砂によりたどり着くことができず、他機関からの情報も断片的だった」と振り返る。  「なぜ、この渓流だけに土石流が発生したのか、山の中で何が起こっているのか、経験したことのない不安が頭をよぎった」(古屋氏)  その頃、静岡県庁では正午に自衛隊へ派遣要請。午後1時に災害対策本部が設置され「当時の難波喬司副知事による現地対策本部の派遣が決まり、ドローンの手配やTEC-FORCEの派遣などの指示が次々と出された」と話す。  古屋氏は、午後4時には副知事と現地調査を開始。「初期情報の想定より被害規模ははるかに大きいことが分かったが、午後6時、日没により源頭部の調査を断念した」。その後、午後7時には、ドローンの映像から源頭部に大規模な崩壊跡を確認している。  深夜0時、県庁未来まちづくり室が中心となった産官学によるVIRTUAL SHIZUOKA(3次元点群データ)の解析から「源頭部に盛土があったことが確認された。そして、翌朝からの源頭部調査、監視体制、救助活動につながっていく」。  その後、盛土の許認可に関する県の行政対応検証委員会では、本件での行政対応は「失敗であった」と結論付けられた。  「行政に携わる皆さまには、二度とこのようなことを繰り返すことの無いよう、決意をもって取り組むことをお願いします。また、泥だらけになって救助や調査に携わっていただいた協力会社の方々に、改めてお礼を申し上げます。そして、亡くなられた方々のご冥福を心からお祈りいたします」(古屋氏)。 【熱海市の伊豆山復興事業計画】  熱海市では、毎年7月3日に追悼式を開くとともに、被災者が一日でも早く安全・安心な生活を取り戻し、地区の持続的な発展を進められるように、伊豆山復興事業計画に基づく整備などに取り組んでいる。県が河川改修事業を進める逢初川の両岸に、国道135号と伊豆山地区を結ぶ路線(総延長520㍍)のうち延長299㍍の新設道路を計画しており、市道伊豆山神社線、市道岸谷2号線といった既設市道との取り付け道路とともに整備を進めている。27年3月末の暫定的な完成を目指す。  復興事業計画には、開発事業者に対する開発規制の周知、安全確保やコンプライアンスの啓発といったソフト面の取り組みも盛り込まれており、申請窓口での指導や広報誌、ホームページを通じた情報発信を行っている。被災者の再建状況を見ると、避難住民は23年5月時点で132世帯だったが、26年6月時点ではこのうち120世帯が再建を果たした。しかし、伊豆山区域内への帰還者は少なく、復興の課題となっている。  市では土石流の記憶と教訓を後世に伝えていくため、慰霊碑建立に向けた意見交換なども進めている。担当課では「引き続き、伊豆山地区の復興のため、被災者の方々との情報共有や関係機関との連携を図っていきたい」としている。                   【県内に盛土規制法適用】  国は、熱海土石流災害を受け、盛土を原因とする災害を防ぐため「宅地造成等規制法」を「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」に改正した。宅地や森林、農地などの土地の用途に関わらず、危険な盛土などを規制している。2022年5月27日に公布、23年5月26日に施行された。これを受け、静岡県は25年5月26日に運用を開始し、同法に基づく規制を開始した。  土地の用途に関係なく、盛土で人家などに危害を及ぼす恐れがある区域を規制対象区域に指定。一時的な土砂の堆積も含んでいる。実効性を保つため、無許可行為や命令違反などへの罰則を、最大で3年以下の拘禁刑、1000万円以下の罰金、法人重科3億円以下を設定した。  規制対象は、宅地造成・特定盛土などで、「盛土で高さ1㍍超の崖を生じる」「切土で高さ2㍍超の崖を生じる「盛土と切土を同時に行い、高さ2㍍超の崖を生じる」「盛土で高さが2㍍超」「盛土または切土をする土地の面積が500平方㍍超」となる場合、静岡県への許可が必要となる(静岡市、浜松市は市の許可が必要)。  この他、土石の堆積で「最大時に堆積する高さが2㍍超(許可の対象は面積300平方㍍超)」、「最大時に堆積する面積が500平方㍍超」の場合も許可申請が必要。 【逢初川河道拡幅など進む】  熱海土石流災害の発生後、国が直轄で砂防堰堤を建設。付近では静岡県が砂防分野で管理用道路工や渓流保全工を行い、その下流部で河川分野の整備を進めている。逢初川の管理性と安全性を向上させるために、河道拡幅をしつつ、開渠部では護岸工の改修、暗渠部ではボックスカルバート更新での断面拡大を進めている。  熱海市道伊豆山神社線付近から国道135号までの約600㍍の改修を計画。これまでに、伊豆山神社線の上下流部分130㍍、市道岸谷2号線付近の約10㍍、東海道新幹線の線路の上流近くで約90㍍の整備を完了。5月末時点で合計約230㍍の工事を終えた。現在は新幹線線路付近から国道135号までの約160㍍、岸谷2号線付近で用地を確保できた区間の工事を進めている。  暗渠区間は道路として供用しており、国道135号から新幹線までの区間など幅員が狭い区間は暗渠のままとし、それ以外の暗渠部分はなるべく開渠に更新することで、安全性を高める方針だ。 【静岡県 危険盛土の防止ポスター・チラシ作成】  静岡県は、2021年7月3日に発生した熱海市伊豆山土石流災害から5年が経過することを受け、「不適切盛土の防止に向けた周知・啓発」活動として、ポスター・チラシを制作した。  くらし・環境部環境局盛土対策課の若手職員が、生成AIを用いてデザインを作成。広報アドバイザーや庁内職員と調整の上、完成させた。  施工者へ「許可証の確認や設計書通りの施工を行い、違法盛土の造成に加担しないよう注意してほしい」と呼び掛けている。  そのため、静岡県建設業協会(市川照会長)、各地区建設業協会会員各社などに啓発ポスターを掲示する。配布予定地区協会数は10地区協会の455社。 その他、静岡総合庁舎など公共施設や、イオンモールなど大型商業施設へも配布し掲示する。