連載 サマータイムチャレンジの現場から①R8・9運河河川維持工事(千葉県野田市~流山市、戸邊建設)

東京【2026/08/20 東京版に掲載】

早朝には住宅の近くを避けて作業する

 近年、夏季の記録的な猛暑が常態化している。最高気温が35度を超える日が続くなど、屋外を中心とした建設現場の作業は過酷さを増すばかりだ。こうした深刻な状況を打開しようと、国土交通省江戸川河川事務所は本年度に所管の8工事3業務で熱中症リスクの高い時間帯の作業を回避する取り組みをスタートさせた。「サマータイムチャレンジ」と銘打ったこの試みによって、建設現場の作業環境はどう変わるのか。主だった工事と業務での取り組みを追った。(全3回)  戸邊建設が手掛ける工事は総延長約20㌔に及ぶ堤防の除草が内容。熱中症リスクがピークに達する午後の時間を避けるため、通常より2時間早い午前6時に作業を開始している。約3年前から現場単位で発注者と協議して、同様の取り組みを試験的に続けてきた。  現場責任者は、「以前は夕方になると食欲不振や吐き気を訴える作業員もいたが、サマータイムを導入してから具合の悪くなるケースは劇的に減った」と効果を語る。午後の最も過酷な時間帯を避けることで集中力が維持されるため、安全面に加え作業の効率化や品質の向上につながっているという。  メリットは生活の質にも表れている。特に喜ばれているのが家族と過ごす時間の増加。作業が午後3時に終わることで、幼稚園に預けた子どもの迎えや買い物、家族そろっての夕食が可能になった。ある作業員は「早く帰って体を休められるだけでなく、家事や育児にも関われる。精神的なゆとりが生まれた」と語る。  通勤時間の短縮も大きい。渋滞の起きない時間帯の出・退勤によって、通常なら車で1時間半かかる道のりが40分程度に短くなった例もあるそうだ。早く帰宅して睡眠時間を確保する「朝型」サイクルの定着などを通じて、作業員の健康管理に対する意識が高まっているという。  一方で、早朝からの作業には近隣住民への配慮が欠かせない。施工区域の長さを生かし、例えば住宅地に近い場所は開始時間を午前9時に遅らせるなど、状況に応じたきめ細やかな調整を行っている。  普及に向けた課題も残る。現状、国交省の発注工事は「真夏日補正」などで費用を見てくれるものの、受注者がさらなる熱中症対策を講じるには不十分な面もあるという。現場責任者は「より手厚い補償があれば、気温が34〜35度の段階で作業を中止するなど、もう一歩踏み込んだ対策が可能になる」と制度の拡充に期待を寄せる。  「一度この快適さに慣れると、元の勤務体系には戻れない」と作業員たちが口をそろえるサマータイム。猛暑から命を守り、建設業界の働き方を変える新しい挑戦が始まっている。