新3K知っていますか(5)胸を張って魅力を語ろう
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建通新聞社アンケートに寄せられた建設業のイメージ。(ユーザーローカルAIテキストマイニングによる分析)
「次世代にものを造るインフラの心を伝えたい」。2025年春の叙勲で旭日中綬章を受章した熊谷組元社長の大田弘氏は祝賀会の席上、受章者を代表してこう述べた。映画「黒部の太陽」を見て建設業界を志した大田氏は今、歴史的な難工事である黒部ダム建設事業の語り部活動を行っている。後世に残り、人の営みを支える仕事は、建設業の大きな魅力だ。
今、建設業で働く人は、自身の仕事をどう見ているのか。ゼネコンの労働組合で構成する日本建設産業職員労働組合協議会が傘下の労組を通じて調べたところ、「建設産業に魅力を感じる」と回答した割合は24年に57.9%となった。
「魅力を感じる」と回答した割合の長期的な推移を見ると、1992年に72.3%だったが、建設投資の急減とともに2000年代に低迷。09年には36.6%にまで減少した。その後は景況感の持ち直しと足並みをそろえるように上昇に転じ、13年以降は過半数を維持している。
■魅力は「後世に残る仕事」
日建協の24年の調査結果を見ると、魅力を感じる理由は「建設したものが後世に残る」が最多だった。次いで「創造する喜びがある」が多く、ものづくりのやりがいや、その社会的意義が建設業の魅力の根幹にあることが分かる。
一方、魅力を感じない理由について、外勤の技術者は「労働時間が長い」、内勤職員は「前近代的な体質が残っている」が最も多かった。時間外労働の罰則付き上限規制の適用を経て、建設業の長時間労働は大きく改善したが、今なお労働条件をはじめとした職場環境が建設業の魅力を損なっている。
建通新聞社が全国の子どもを持つ親に行ったアンケートでは、厳しい労働環境が建設業に関する一般イメージにも影響していることを明らかにした=画像参照。「役に立つ」「職人」そんな言葉も見られる一方で、「3K」「労働環境」「危険」といった単語が目立った。長時間労働は改善されつつあるが、建設業のイメージを転換するにはまだ時間を要する。
子どもが建設業に就職を希望すれば賛成するとの回答は過半数を占めたものの、多くの親世代は長時間の残業や労働災害について不安を持っていることが分かる。ある回答者が寄せた「大変な仕事だけれど、社会を支える大事な仕事だと思っている」は、子どもを持つ多くの人に共通する感覚と言えそうだ。
■長く、誇りを持って働ける建設業へ
深刻化する人手不足を背景に、建設業では大手だけでなく中小を含めて初任給の引き上げが続く。新3Kの「給料」に当たる取り組みだ。しかし、東京都内の地域建設業が開いた合同就職説明会に参加した学生たちからは、「初任給だけが高くても意味がない」との声が聞かれた。
ある学生は「長く会社にいて信頼関係を築き、経験年数や資格に応じた評価が得られればうれしい」と述べた。学校の先生や先輩を通じ、関心のある企業の職場が長く働き続けられる環境かどうかを確かめるのだという。
新3Kの「給料」に加えて、週休2日の確保をはじめ労働環境を改善する「休日」、そして将来にわたって産業が持続し、自身が成長できるという「希望」がそろって初めて人材が定着する。
これに、「かっこいい」を加えた新4Kという言葉も業界内で聞かれ始めた。黒部ダムのような大規模事業は限られるが、埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故を契機として日々、インフラを守る建設業の価値への関心は高まっている。現代に適合した「かっこいい」仕事をアピールして建設業界を志す若い世代を増やし、長く働いてもらえる環境を整えることが、建設業の持続可能性につながる。(この連載 おわり)