建設業×資金繰り(2)手形廃止へ迫るタイムリミット
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「やめたいが、やめられない」。紙の手形の利用状況に関する全国銀行協会の調査には、中小企業のそんな声が数多く寄せられた。だが、2026年度末には手形の電子交換が終了し、実質的に利用が廃止となる。ピーク時からは減ったものの、建設業は手形の利用が多い業種の一つだ。現金払いや電子記録債権(でんさい)といった決済手段への切り替えは間に合うのか。
24年に電子交換所で交換された手形の枚数は974万枚。ピークだった1979年からは約20分の1にまで減ったものの、いまだ膨大な枚数が流通している=グラフ。
今も手形の利用を続けている建設業者の多くは一人親方や中小の専門工事業と、その取引相手である元請け企業だ。全国建設業協会が会員企業を対象に2025年度に行ったアンケートでは、元下間の請負代金額の支払い手段の一部または全部で手形を使用している割合は22・2%となった。
手形を振り出す側は決済までの猶予期間の確保、受け取り側には裏書譲渡というメリットがあり、いずれも資金繰りの手法として建設業界に根付いてきた。小規模な事業者の場合、経理事務の見直しが難しいという事情もある。結果として、「やめたい」と考える事業者が多くても、手形利用を希望する取引先がいるため「やめられない」という状況が続いてきた。
一方、政府は決済手段の近代化に向け、21年の成長戦略で手形の廃止を表明。これを受け、全銀協も手形廃止に取り組むとともに、26年度末から電子交換所での手形交換の終了を打ち出した。
手形に代わる決済手段として、全銀協は電子記録債権の普及を急ぐ。手形の不渡りと同様の「不能処分」があるため、信用力を担保できる他、裏書き譲渡に相当する機能も備える。印紙税が非課税で、郵送・現物管理の負担を減らせるなど、手形にないメリットもある。
でんさいを使うには、取引を行う双方の事業者がサービスを利用している必要がある。重層的な下請け構造にある建設業者が足並みをそろえなければ、新たな決済手段への切り替えは難しい。でんさいネットは、元請けが開く安全大会などの機会をとらえて普及に取り組んでいるという。24年には、より簡易な「でんさいライト」を開始し、サプライチェーンの末端にある一人親方を含めて浸透を目指す。
手形廃止のタイミングでは、一時的に企業の資金繰りが苦しくなる恐れもある。預金残高がマイナスになる分を金融機関に建て替えてもらう当座貸し越しや追加融資など、倒産を回避する工夫が必要だ。
政府が手形廃止を推進するのは、決済のデジタル化に加え、弱い立場に取引のしわ寄せがいく商慣行の見直しを促す狙いもある。24年11月からは、特定建設業が一般建設業の下請けに60日超の手形で決済すると「法違反の恐れがある」とされた。
手形が廃止され、でんさいや現金払いに切り替わったとしても、長期の支払いサイトという"旧弊"が維持されては、建設業の資金繰りは改善しない。発注者から元請け、下請けまで、サプライチェーン全体で支払い条件を改善できるかが問われている。