建設業×資金繰り(3)クレカが変える経理事務

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 長く現金払いや手形が主流だった資機材の調達に、クレジットカードによるキャッシュレス化の波が迫っている。導入企業は、支払いまでの期間(サイト)の確保による資金繰りの安定化や、工事に伴うコストの可視化をメリットに挙げる。手形の電子交換が2026年度末に終わろうとしている今、クレジットカードという新たな決済手段は建設業界に何をもたらすのか。  「あらゆる建設資材をカードで買える世界を作る」。建設業振興基金が7月に開いたフォーラムにゲスト参加したアメリカン・エキスプレス・インターナショナルの神嶋淳志副社長はそう述べた=写真。クレジットカードは個人の支払い手段として定着しているが、同社は近年、建設分野の企業間取引でクレジットカードによる決済の普及に注力してきた。  支払いが可能な取り引きは、建設機械のレンタルから管材、建材、仮設資材、電材の調達まで幅広い。もともと同社の法人会員に占める建設企業の割合は大きく、「建設分野には非常に大きな潜在市場がある」と神嶋氏は見る。  とはいえ、建設業の支払い手段は銀行振込が圧倒的だ。同社が23年に行った調査では、86・1%と大半を占めた。次いで現金が62・5%を占め、口座振替が47・6%、手形・小切手の41・4%が続いた。クレジットカード決済は30・7%で、定着は道半ばと言える=グラフ参照。  建設業がクレジットカードを利用するメリットの一つとして、神嶋氏が挙げるのは「支払いサイトを長く取れること」。施工に先だって建材購入などで大きなコストがかかる一方、入金のタイミングが完成後となるなど、手持ち資金が枯渇しやすい建設業にとって、その魅力は大きい。これまで手形が果たしてきた役割を代替する効果があると言えそうだ。  大規模な調達部門を備えた大手ゼネコンは別として、人員の限られた地域建設業にとっては、工事に伴う実行予算の管理をはじめとした経理事務の負担は大きい。クレジットカードを導入することで、取引先の与信管理が不要になる他、資機材の調達・支払い状況を一元的に把握することも可能になる。銀行振り込みに伴う手間や手数料を減らすことができ、バックオフィス業務の効率化にもつながる。  従来、建設業の経営を巡っては、手形を用いた長期間の支払いサイトの設定や、支払い遅延の発生による資金繰りの複雑化が課題として指摘されてきた。資機材価格が高騰するなど、より厳密な資金繰りが求められるようになった近年、いわゆる"どんぶり勘定"が通用する余地は小さくなっている。  建設現場の遠隔臨場やICT施工など、施工分野ではデジタル化が進展したものの、経理事務をはじめとしたバックオフィス分野では、紙書類が中心の業務が根強く残る。キャッシュレス決済の特性を生かした経理事務の効率化は、建設業の経営を効率化する新たな一歩となるかもしれない。