建設業×資金繰り(4)インフレが促す「脱請負」
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閉鎖中の中野サンプラザ
再開発計画が白紙となった中野サンプラザ(東京都)をはじめ、官民を問わず建設プロジェクトの中止や延期が全国で相次いでいる。資機材価格や労務費の高騰を受け、当初想定した予算での事業実施が困難になる例が目立つ。建設業者にとっても、従来の総価一括請負では受注後のコストアップを転嫁できず、受注の可否を慎重に判断せざるを得ないのが実情だ。長く続いたデフレの終わりとともに、受発注者の関係が変わりつつある。
公共事業に注目すると、施設の整備と運営を一体で発注するPFI事業は事業期間が長くなるため、特にインフレの影響が顕在化しやすい。自身も多くの官民連携事業に携わったインデックスグループ(東京都)の植村公一代表は、公共発注者に顕著な課題として「建設コストばかりに注目し、運営段階のコストに目を向けないこと」を挙げる。
資機材価格の高止まりや中長期的な担い手不足から、建設コストは今後も増加が見込まれる。建設コストの上昇分は適正に転嫁し、むしろ施設が完成した後の運営段階の効率化や収益性向上で、事業全体の費用対効果を高めることが重要だと、植村氏は説く。
建設コストの転嫁には透明性が求められる。適正な価格転嫁のため、有効な手法の一つが材料費や労務費を発注者に対して可視化する「オープンブック方式」と、かかった費用を実費精算して報酬(フィー)を上乗せする「コスト+フィー」の併用だ。建設業者にとっては、総価一括請負のようにコスト削減で大きな利益を得ることは難しいが、インフレの状況下でも着実に一定の利益を得られる。想定外のコストアップによる資金繰りの悪化を避け、経営を安定させる効果が期待できるという。
こうした発注手法を取り入れるには、施設の整備段階で開示された建設コストを精査し、運営段階でも円滑に事業をマネジメントする能力が発注者に求められる。だが、地方自治体の技術職員は減少傾向が続き、専門外の職員が発注関係事務を担当する例も少なくない。植村氏は「地元の設計事務所や建設会社がそういったビジネスを開拓するのはどうか」と唱える。
海外に目を向けると、一般的に建設会社と呼ばれる企業も、建設工事に専念する業態と、プロジェクトマネジメント(PM)に特化する業態に分かれる。国内のゼネコンも二つの業態のいずれかを選ぶ岐路に立っているというのが植村氏の見立てだ。
工事に専念する企業は、労務費や材料費を実費精算し、地域のインフラを支える企業として存続するために必要な報酬を受け取る。PMに特化した企業は自治体を技術的に支援し、円滑な工事の実施や施設の運営・維持管理を後押しする。持続するインフレが、建設業のビジネスモデルをそんな風に変えるかもしれない。「今は狭間の時期と言える。建設業界も、新たな社会システムに合わせて変わっていくべきではないか」(植村氏)