建設業×資金繰り(5)金利上昇で問われる経営力

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 コロナ禍で低く抑えられていた金融機関からの調達金利が、上昇に転じつつある。東京商工リサーチの調査によると、2024年の中小企業の推定調達金利は建設業が最高の1・14%となった。金融機関は今後、企業の成長性や与信リスクをより敏感に金利に反映するようになる。個々の企業の「経営力」が試される。  デフレの環境下で、建設企業の借入金利は低い水準に抑えられてきた。しかし、東日本・西日本・北海道建設業保証の3社がまとめた地元建設業の景況調査では、24年の下期を境に短期借入金利が「1%未満」と回答した企業は急減している=グラフ。  大手と比べて中小建設業の借入金依存度は高く、借入金の返済負担増加や利益減少は、じわじわと経営体力を削りかねない。金利引き上げを打診されたとき、建設業はどう動くべきか。  よりよい条件での借り換えや金利の引き下げ交渉が重要になるが、金融機関と協議する際には、自社の成長性や健全性を示す必要がある。財務体質を改善するためにも、まず避けなければいけないのが目先の資金繰りを確保するためだけの無理な工事受注だ。  金融庁が金融機関向けにまとめた中小建設業の支援に関するハンドブックでも、採算の見通しがないまま受注した工事が現場に負担をかけ、財務状況の悪循環に陥ることが指摘された。特に、資機材価格や労務費が高騰している現状では厳格な予算・原価管理が欠かせない。  昨年成立した改正建設業法によって整備された価格転嫁ルールは、価格高騰による利益の目減りを防ぐ有効なツールとなる。契約前に、請負額に影響を及ぼす「おそれ情報」を発注者に示し、契約書面にも金額変更方法を記載しておくことで、リスクが顕在化した際には発注者に誠実な協議の努力義務を課すというもの。想定リスクの整理やこまめな受発注者協議、書面の保存といった手間はかかるが、資金面で不測の事態を避けることができる。  人員に限りのある中小建設業の場合、資機材調達などの権限は、現場代理人に委ねられることが多い。コスト管理をはじめ、バックオフィスの支援機能の強化はますます重要になる。  一方、オーバースペックの抑制や高強度部材の採用による数量・作業量の削減といったVE提案には現場の知見が欠かせない。現場と管理部門のコミュニケーションを改善することが、個々の工事の利益拡大に直結する。 ■財務基盤の安定に資本性借入金  財務基盤を安定させる観点からは、政府系金融機関や一部の民間銀行が取り扱う資本性借入金の活用も有効だ。新規に借り入れても資本の一部と見なされるため、財務諸表は改善する。  政府は資本性借入金の活用を推進する方針を表明している。これを受け、国交省は今年7月から経営事項審査で資本性借入金を自己資本と見なし、X評点・Y評点のアップに活用できるようにした。ただし、償還期間が5年を切るとみなし資本が毎年20%ずつ減少する。この間に人材の強化や技術力向上を通じ、出口戦略を立てることが重要だ。  国交省は今年、技術と経営に優れた企業の在り方や、その評価方法に関する有識者勉強会を発足させた。26年3月にかけて議論を重ね、中長期の建設業政策の方向性を示すという。楠田幹人不動産・建設経済局長は就任時のインタビューで、金利上昇の資金繰りへの影響を念頭に「経営力をより強化していくことが必要になる」と指摘した。  金利や資機材価格の上昇、担い手不足といった課題はいずれも中長期的なものだ。資金繰り改善や現場の生産性向上といった個社の経営努力は前提として、将来にわたって地域インフラを支える建設業をどのように維持するかという観点からの議論も期待したい(この連載 おわり)