建設業皆保険時代(3) 法令順守は価格決定の前提 エンドユーザーの理解不可欠

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 社会保険加入対策に合わせ、国土交通省は社会保険料の原資となる法定福利費を公共工事の積算に反映した。公共工事設計労務単価には法定福利費の労働者負担分が上乗せされ、13年3月に改訂した労務単価は、全国全職種平均で前年度比15・1%増の記録的な伸びとなった。法定福利費を予定価格に反映したことは、公共工事から未加入企業を排除する根拠にもなっている。  社会保険料の労働者負担分が労務単価に計上されたことが、その後13年間続く労務単価引き上げの原動力にもなった。労務単価はその後の13年間で85・8%上昇している。  公共工事で法定福利費を支払われるようにした上で、国交省は14年11月から社会保険未加入の企業を排除(当初は元請け・1次下請けのみ)。一方、民間工事や元請け・下請け間でも、適正に法定福利費が支払われるよう、法定福利費を内訳明示した見積書(標準見積書)の活用を求めた。  国交省の調査に対し、標準見積書を元請けに提出していると回答した下請けは、対策の開始直後の14年度時点で31・6%にとどまったが、直近の25年度には69・5%まで上昇した(いずれも一部提出含む)=グラフ参照。  さらに、標準見積書を元請けに提出すると、法定福利費が支払われたとの回答も79・9%に上り、法定福利費の支払いは元請け・下請け間にも定着してきている。  ただ、法定福利費を請求することが、実際の技能者の賃金である労務費のしわ寄せへとつながり、結果として処遇改善につながらないという懸念は加入対策の当初からあった。このため、昨年6月に成立した改正建設業法の労務費に関する基準では、労務費だけでなく、必要経費を明示した見積書の作成・提出を建設業の新たな商慣習として定着させる。  労務費と合わせ、見積書に明示する必要経費を法定福利費(事業主負担分)、安全衛生経費、建設業退職金共済の掛金であると明確化。これまで、標準見積書を活用して行き渡らせようとしてきた法定福利費も、建設業法上の「通常必要と認められる原価」と改めて位置付ける。  芝浦工業大学の蟹澤宏剛教授は「これまでの建設工事の価格は、建設業が法令を守ることができない前提で決まってきた側面がある」と述べた上で、「法令を守り、働く人たちを大事にしようとすれば、価格も上昇するということを発注者が理解する必要がある」と話す。「建設業は、発注者の先にいるエンドユーザーにも理解を得られる産業にならなければならない」とも強調する。