建設業皆保険時代(4) 他産業より低い退職金 複数掛金で「最低でも1000万円」

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 社会保険加入によって社員化が進み、技能者の処遇は徐々に改善に向かっている。全産業平均に比べると依然として低いが、賃金は上昇を続けている。ただ、社会保険加入対策をはじめとする技能者の処遇改善の目的は、担い手の確保にある。人口減少の影響は避けられず、就業者数の減少は続いている。他産業との人材獲得競争に勝ち抜くために、今の建設業に足りないことは何だろうか。  建設業の厚生年金保険への加入率は、社会保険加入対策前の23年10月に58%だったが、直近の24年10月には96%まで上昇した(いずれも労働者単位)。しかし、生涯年収が全産業平均と比べて低い技能者にとって、退職後の生活への不安はまだまだ大きい。  こうした不安に応えるはずの建設業退職金共済は、37年間掛金納付した場合の退職金額が388万円で、中小企業の退職金額の全産業平均842万円(東京都調査)の50%に満たない。社会保険や賃金だけでなく、退職金額の充実が必要だ。  他産業に比べて退職金額が低い要因の一つは、建退共の掛金日額が単一(320円)であることにある。事業主は退職金を増額したくても増額できず、掛金月額を選択できる中小企業退職金共済へと切り替えるケースも増えている。  こうした制度上の課題を解消するため、共済契約者が掛金日額を選択できる「複数掛金」の導入が検討されている。勤労者退職金共済機構の建退共事業本部の検討会議がまとめた報告書では、建設技能者の退職金を「最低でも1000万円」とする目標を提案。掛金の上乗せができる複数掛金の導入が必要だとした。  建退共事業本部のモデルケース=図参照=によると、掛金日額を800円とすれば、退職金額は1154万円(45年勤務)となり、目標とする1000万円を上回る。事業主は、多能工として現場の生産性を高めた技能者や、厳しい労働条件で働く技能者に対し、退職金を上乗せできる選択肢を持てる。  複数掛金制度を選択するためには、建設キャリアアップシステム(CCUS)と連携した電子ポイント方式の活用が必須。建退共制度の根拠法である中小企業退職金共済法の改正も必要だ。  建設業は、社会保険加入の面では他産業に並んだものの、産業の特殊性を理由にこれまで手つかずだった課題が待遇面全体で見るとまだまだ多い。建設業がこの先も担い手を確保し、産業全体の持続性を高めるためには、賃金水準だけでなく、処遇全体で他産業に追いつかなくてはならない。