解説 労務費の基準(3) 当初、最終見積書は10年保存 労務費明示の定着へガイド
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改正建設業法により、請負契約を締結する際に必要経費を内訳明示した「材料費等記載見積書」を作成する努力義務が全ての建設業者に課された。違法な減額がないか建設Gメンが確認できるよう、当初・最終見積書の保存期間は10年間とされた。これまで見積書を作る慣行のなかった中小建設業者にも徹底してもらうため、国土交通省は見積書の様式例と「書き方ガイド」を公開し、活用を呼び掛けている。
見積書に内訳明示するのは、材料費と労務費だけではない。これまで国交省が専門工事業団体とともに確保に取り組んできた法定福利費(事業主負担分)と安全衛生経費、建設業退職金共済制度の掛金を、適正な施工の確保に「不可欠な経費」として法的に位置付けた。こうした経費についても、通常必要な額を著しく下回る見積もり、見積もり依頼は禁止される。
公共工事においては、入札金額内訳書の中でこれらの経費を記載することとされている。
■建設Gメンの活動の"端緒情報"に
見積書かその写し、注文者との打ち合わせ記録などは請負契約書と同様に、保存義務の対象に追加された。当初見積りと最終見積もりを比較できるようにすることで、例えば注文者の地位を不当に利用した労務費の減額依頼など、法違反の実態を確認しやすくする。
保存期間は工事目的物の引き渡しから10年間。書類管理の負担軽減や書類確認の円滑化のため、国交省は電子的な保存方法が望ましいとしている。
建設Gメンによる2024年度の下請取引に関する実態調査では、当初見積もりと比べて最終見積もりに記載した労務費が「1~2割低い」と回答した下請けが全体の30・4%を占めたという。今後は、通報などに応じて建設Gメンが取引実態を確認し、不当な減額交渉やダンピング受注の指導を通じて適正な見積もり、労務費確保の商慣習の形成を促す。
■中小零細の見積書作成を後押し
職種によっては材工一式で見積もっている建設業者が多い。特に中小零細の事業者では、独自に内訳明示の見積書を作成するのが難しい例も少なくないとみられる。
そこで国交省は、専門工事業者向けに表計算ソフトに対応した見積書の様式例データを提供するとともに、「書き方ガイド」を公開。様式例の明細書に「労務費の基準」を参考に歩掛や適切な労務単価を入力すると、数量を踏まえて必要な労務費が自動計算される仕組みとなっている。
一方、個人や建設業者でない発注者に対しては、見積書の保存義務までは課さない。とは言え、発注者が労務費などの必要額を著しく下回るような見積もり変更依頼を行えば、勧告・公表の対象となり得る。
