解説 労務費の基準(4)「請負契約」原則は変わらず 高まる見積もりの重要性

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 「労務費の基準」が設けられたことで、建設工事は請負契約から常用へと一歩、近づいたのだろうか。だが、実際の施工でかかった労務費が見積もり時より高くなったり、あるいは安くなったりしても、その差分を注文者と精算することは想定されない。改正建設業法に基づく取引においても、建設工事が請負契約であるという原則は変わらない。 ■高騰時は「価格転嫁の円滑化ルール」を活用  ただし、基準を踏まえた見積もりによる契約でも、注文者の都合で設計変更や見積もり条件の見直しが行われた場合は、当事者協議で請負代金額も変更すべきとされる。また、契約当事者の双方に責任のない労務費の変動については、2024年12月に施行された価格転嫁の円滑化ルールに沿った変更協議が可能だ。  受注者が事前に価格高騰リスクを通知しており、契約書に基づく変更協議を申し出た場合は、注文者に誠実に協議に応じる努力義務が課される。リスクを事前に通知していなくとも、労務費上昇で原価が請負代金額を上回った際、注文者が地位を不当に利用して協議に応じず、結果として著しく低い金額となれば建設業法違反となる恐れがある。 ■適正見積もりの期間確保  改正法の理念は、下請けから見積もった労務費を積み上げ、適正な労務費を発注者との契約で確保するというもの。とは言え、実際の商慣習を踏まえると、末端の下請け先まで事前に見積もりを取ることは難しい。労務費の基準の運用方針では、下請けから見積もりを取らずに注文者に見積書を提出することも可能とされた。  このとき、受注者は下請けの施工分を含めて、基準に基づき必要な労務費額を見積もることが求められる。設計変更などがない限り、自身の見積額での施工に責任を負うことになる。  契約後、事前に見積もりを取っていなかった下請けから想定以上の労務費を請求された場合、受注者は自己負担で適正金額を下請けに支払うことが原則だ。下請けの見積もりが基準に照らして適正であれば、上位契約を理由に下請けの労務費の減額を依頼すると建設業法違反となり得る。  政令では、予定価格に応じて注文者の側が最低限、確保すべき見積期間が定められている。例えば5000万円以上の工事には15日以上が必要になる。今回の改正により見積もりの重要性が高まったことを受け、国土交通省は注文者に対し、政令の規定にかかわらず適正な見積もり期間を設けるよう求めている。