解説 労務費の基準(9)「著しく低い労務費」とは 価格・取引実態の両面で判断

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 「労務費の基準」に照らして著しく低い見積もりや契約は、建設業法違反として勧告・公表や指導・監督の対象となる。では、こうした措置の対象とするかどうかをどのように判断するのか。国土交通省は、取り締まりの対象となる水準を明確に示すと見積額がそこに張り付きかねないという懸念もあり、対外的に「著しく低い労務費」の水準を示していない。実務的には、価格と取引実態の両面を踏まえて判断するとみられる。  建設業法令順守ガイドラインを見ると、労務費が通常必要な額を著しく下回っているかどうか判断する際の考え方が示されている。地域性や工事内容を踏まえて技能者の処遇に必要な労務費、労務単価と実際の見積額の乖離(かいり)の程度や、乖離の理由、元請けと下請けの協議状況などが判断のポイントになる。最低賃金を下回るような低い額については、「著しい乖離状況と当然判断される」とした。  ガイドラインでは、法改正の趣旨を踏まえて「望ましくない行為」の事例も示した。下請けが材料費や労務費、法定福利費、安全衛生経費といった必要経費を内訳明示せずに見積書を交付した場合が該当する。  さらに「建設業法上違反となる恐れがある行為」として、下請けが適正な見積もりを行ったにも関わらず、元請けが尊重せず、著しく低い労務費へと見積もり変更を依頼したケースを位置付けた。元請けが工事代金を低く抑えるため、一方的に必要額を著しく下回る変更依頼を行った場合も該当するとした。「著しく低い額」と「一方的な変更依頼」の両方がそろうと、特に悪質性が高いという。  合わせて公表された、「通常必要と認められる労務費を著しく下回る恐れのある取引事例集」も参考になる。改正法の全面施行以前から建設Gメンが調査してきた事例を踏まえ、「改善が必要」と判断される具体的な行為を六つの類型にまとめた。いずれも、建設業法に基づく指導や監督を受ける恐れがある。  主な内容を見ると、▽数年にわたって労務単価を見直さない▽合理的な理由、根拠のない一律・一定比率の減額▽工事予算を前提とした指値▽複数者から徴収した最低額を別の事業者に示し、減額変更を依頼▽取引関係の維持を目的に、根拠なく労務費を減額して見積もる▽工事条件を考慮せず、実現困難な歩掛を使用―といった行為が対象となる。  事例集は、建設工事の注文者(発注者、元請け、上位下請け)と受注者の双方にとって、法令順守の参考として活用できる。建設Gメンの調査を踏まえ、国や都道府県といった許可行政庁が行政指導を行う際の参考にも位置付けられている。