連載①「今問われる発注の〝歪み〟~弥富市官製談合から見えた課題~」
中部
弥富市役所
3月4日に建設部長が起訴された愛知県弥富市の官製談合事件。一般紙の多くは「落札率99%」を談合の根拠だと指摘したが、果たしてそれは根拠になり得るのだろうか。近年、多くの建設業者から聞こえてくるのが「予定価格(落札率100%)で落札しても利益が出ない」という声だ。国内経済がインフレ基調にある中、予定価格を作成する積算作業から入札までの間に資材価格や労務費が上昇し、実勢価格とかい離する事例が増えている。
一方で、デフレの時代に価格競争が激化したことで、いまだ「公共事業は安くなる」という印象を持つ人は多い。それが「落札率99%=悪」の論拠にもなっているのだろうが、今後、建設に関わるコストは、さらに上昇することが見込まれている。「公共工事の価格」が誤解されたままでは、公共調達システムは適正に機能しなくなるだろう。今回の事件を契機に、建設専門紙の目から、現在の公共工事と発注体制の課題を探った。(3回連載の①)
2026年2月に弥富市で発覚した官製談合事件では、25年5月に発注した「弥富まちなか交流館改修工事」など3件の市発注工事で、建設部長が機密事項となる設計金額を地元業者に漏えいしていたとして逮捕された。建設部長は、官製談合防止法違反、公契約関係競売等妨害として起訴。関与した4業者と1JVは略式起訴に加え、1年6カ月の指名停止処分となっている。
起訴理由となった両違反の趣旨は「入札などの公正さの妨害」。予定価格を事後公表としている弥富市の工事で、「予定価格を漏らす」という行為が「公正さ」を妨害したという点は否定できない。一方で、この官製談合防止法が生まれた背景には、1990年代後半に相次いだ「談合による不正な利益が、首長などの不適切な個人・団体に渡っていた」事件がある。これが「落札率99%以上=談合=悪」というイメージを強固にしたといえるだろう。
ただ、同法が施行された2003年以降、公共工事を舞台とした談合の摘発件数は減少している。一般競争入札や総合評価方式の導入といった入札制度改革も進み、官製談合の排除を後押した。
【増加する不調・不落】
その一方で、増加傾向にあるのが、入札の不調・不落だ。特に近年は、円安やインフレ基調を背景とした資機材価格の高騰、人手不足による労務単価の上昇によって、大幅に増加。例えば、愛知県の「2025年度愛知県入札監視委員会第3回定例会議」(25年11月30日開催)によると、25年度第2四半期の県発注工事の入札における不調・不落は49件で、前年同期より19件、63%の増となっている。
不調・不落となった場合、発注者側はヒアリングを通じて工期や参加者資格を見直すなど、条件を再設定して再公告する。しかし、必要なコストが実勢とかい離した案件を受注可能な案件にすることは難しい。公共施設やインフラの老朽化対策が喫緊の課題となる中、このような〝人気のない案件〟を、どのようにして〝受注してもらえる案件〟にするのか。私たちも取材中に、悩みを抱える発注担当者から話を聞く機会が増えている。
【即応できない予算・予定価格】
なぜ、予定価格(予算)と実勢価格のかい離が生まれるのか。その大きな要因は、予定価格を算出する積算から入札までに要する長い期間だ。一般的に一定規模の案件は、工事の前年度に設計と積算を行い、予算を要求、予定価格を算出する。簡単に言えば、入札の1年前に工事価格の上限を決めてしまうことになり、これでは急激なコストの上昇に対応できるはずがない。
さらに地方自治体では、このコストの「根拠」への対応も遅れがちになる。例えば、国土交通省が2月に引き上げを発表した一般管理費等率。人件費や物件費といった元請けの本社経費に充てる一般管理費を算出するための重要な係数だが、国の基準を自治体が取り入れ、予算に反映するのは早くても1年後になる。これは、労務単価や歩掛も同様だ。そしてインフレが続く中では、1年後にこれらを適用しても、さらに実勢価格とかけ離れる予算となることが十分に予見される。
一般的に予定価格には発注者側が考える「利益」が含まれているとされるが、このようにして「落札率100%でも赤字」という案件が生まれている。入札は公正であるべきだが、その根幹となる価格形成のプロセスが揺らいでいるのが現状だ。
