連載「縮退の時代」② 公立高校の再編
静岡【2026/09/02 静岡版に掲載】
県内10地区で高校再編を検討。
静岡県内に89校ある全日制公立高校。これらの学校に通学する生徒は2025年時点で約5万5000人だったが、40年には約3万4000人と、約4割減少する見通し。それに伴い、静岡県は学校数を89校から50~60校に再編する方針を示している。
県は、県内を10地区に分けて、それぞれのグランドデザインをまとめている。25年度までに9地区で構想をまとめ、残る磐周地区も26年度中に策定する。地区によっては、統合後の新校舎の設計に着手しようとしている学校もあり、再編に向けた動きが進んでいる。
再編後に使用しなくなる校舎やグラウンドの活用も、地元にとって重要だ。公有資産として県や市町が別の用途に使用するか、民間活用に門戸を開くか。地域にとって有効な使い方を見極めなければならない。
―避難所としての学校体育館
7月28日に発生した熊本地震では多くの人が避難生活を余儀なくされているが、空調の有無など、避難所ごとの設備や環境の差が指摘されている。県内でも、体育館が指定避難所とされている県立高校が66校あるが、スポットクーラーが配備されているのみで、固定式の空調はどの県立高校にも設置されていない。今後、県内10地区での公立高校再編も踏まえて、設置を検討していく。
鈴木康友知事は8月12日の定例記者会見で「気候変動で夏の異常高温の中、夏に大規模災害が発生した際の、熱中症対策などは非常に重要。避難所となる体育館の空調は課題」としつつ「大空間に空調設備を設置すると、多額の費用が掛かり大きなネックとなる」と吐露。小中学校、特別支援学校には国の支援措置があるが、高校体育館への設置には財政支援がないため、整備が遅れているのが現状だ。「国に対して、高校も支援対象に加えること、小中学校などへの補助率の嵩上げを要望したい」と述べた。
―同窓会は〝学校の存続〟求める
母校の〝廃校〟もあり得る高校再編は、卒業生や地元にとっても複雑だ。少子化に伴う再編の必要性は理解しつつ、母校の伝統や地域社会での役割を残したいという思いも強い。
静岡市立高校と清水桜が丘高校の同窓会は5月15日、難波喬司市長に要望書を提出。市立高校同窓会の大坪義武会長は「市立高校の伝統継承、アイデンティティー確保に向けた校地、校名、校歌、校章の存続」を求めた。市立高校の校地は「静岡地区、清庵原地区から通いやすい」とし、文教地区であることなどを踏まえ、「静岡市葵区千代田の市立高校を活用」するよう要望した。
「母校がなくなるかもしれない」。この現実が、少子化でいや応なしに突き付けられている。寂しさやノスタルジーはあるが、生徒の学習環境を整えるには、複数の高校の再編、廃校は免れない。新校舎を建設するか既存校舎を活用するかは地域によって異なるが、安全で健全な学びの場を確保するための環境整備が求められている。
高校再編の動きと、既に廃校になった学校の跡地利用を追った。
地区ごとのグランドデザイン
県内10地区でグランドデザインを策定しているが、北駿地区のように新校舎の設計に着手しようとしている地区や、キャンパス制への移行を決めた賀茂地区のように再編が進むところもあれば、方針検討中、グランドデザイン策定中など、進捗はさまざまだ。各地区の状況を見ていく。
―賀茂地区
賀茂地区には下田高校と南伊豆分校、稲取高校、松崎高校がある。県教育委員会は25年11月、下田を本校とし、松崎と稲取をキャンパスとする「キャンパス制」を28年4月に導入すると発表。従来の本校、分校の関係に比べて、より連携を深めた形になるという。新校舎の建築や増築は予定していない。南伊豆分校は29年度末に閉校する。
―田方地区
田方地区では、分校を含む全日制の県立高校9校を38年度ごろまでに4校程度に再編する。地区内の配置バランスを踏まえて、1クラスになった学校は分校とし、人口減少に対応した将来の再編も視野に入れる。
校地の選定は生徒の通学可能範囲などを考えて配置する。現在、庁内で検討を進めている。
―沼津地区
沼津地区には公立は6校、私立も含めると11校ある。生徒数の減少と、市立高校の存在を踏まえた計画的な再編などの体制整備を26年度中をめどに検討している。私立高校に少ない商業科や工業科などの専門学科や、適正規模の実現を最優先する。
―北駿地区
北駿地区では、現在の4校から2校に再編する。御殿場高校、御殿場南高校、裾野高校の3校を統合して「北駿地区新構想高等学校(仮称)」を新設。もう1校は、小山高校を小山町と連携して新しい小山高校に改編する。
「北駿地区新構想高等学校(仮称)」には、1学年に工業科1クラスと普通科5~6クラスを設ける。定員は1学年240~280人。御殿場南高校の敷地内に校舎を新築する計画で、規模は鉄骨造4階建て延べ8694平方㍍、新体育館は鉄骨鉄筋コンクリート造2階建て延べ3000平方㍍。新校舎や新体育館などの基本設計を2027年5月31日まで、実施設計を28年5月22日までにまとめる。設計の契約予定者は決まっており、審査を経て9月中に契約する見込み。
小山高校は、全日制2クラスと定時制1クラスを設置する。小山町と連携し、町内の企業などをフィールドに「本物に触れるリアルな探究活動」を教育の特色とする。探究に重点を置いた新たな学科も検討している。
―富士地区
富士地区は、富士市内に5校(うち市立高校1校)、富士宮市内に4校あるが、33年までに富士市内3校、富士宮市内2校に集約する。富士宮市内の高校の再編検討を先行し、富士市内の公立高校は、富士市の市立高校の在り方を考える審議会の動向も踏まえて調整する。
―清庵・静岡地区
現在、静岡市内には、市立を含めて14校あり、グランドデザインでは「段階的に10校程度に集約」する計画だ。
農業・工業・商業の学びは、県内の拠点校としての役割を維持する。その他の高校は、生徒数の減少や学校の配置などを踏まえて検討し、38年度ごろを見据えた再編方針を28年度までにまとめる。
県に加えて静岡市も、「市立高校」と「清水桜が丘高校」を再編する。難波市長は4月、2校の再編について「市立高校同士の統合にとどまらず、県立高校との再編など、複数のパターンが考えられる」と説明した。県と調整しながら検討を進めており、27年3月をめどに具体的な方針を公表する。統合後の学校は、中高一貫教育を行う中等教育学校も視野に入れている。最短で30年の開校が想定される。
校地の選定や移行計画、開校時期、校地として使用しない場合の高校の施設や跡地の利活用などを検討していく。
―志榛地区
志榛地区では39年度ごろまでに、全日制で12校から7校程度へ段階的に改編する。校地の選定は、生徒の通学可能範囲などを考慮する。
志太地区は6校程度、榛南地区は1校を設け、北榛地区は、川根高校(川根本町)を、ふじのくに国際高校(島田市)の分校とする。榛南地区の方針を定めた後、北榛地区の検討に入る。
―磐周地区
10地区のうち、磐周地区だけがグランドデザインを定めておらず、26年度中に策定する予定。
―西遠地区
39年度ごろまでに、現在の18校から13校程度に、段階的に改編する。13校の役割と配置を構想した上で個別協議をする。適正規模を下回る高校や、特別な支援を必要とする生徒の学習環境を整備するなどの課題に対応する高校の再編は、32年ごろまでに開校する。
―小笠地区
地域全体で教育活動の一層の魅力化、特色化を推進する。また、磐周地区や志榛地区の動きと連動して、28年度ごろまでに方針を練る。急激な少子化に対応した高校の整備は、33年度ごろまでに完了させる。
―県議、〝借地〟〝浸水域〟など統廃合の4ルール提言
静岡県議会の阿部卓也議員(ふじのくに県民クラブ)は、県議会2025年6月定例会で、公立高校の統廃合について「老朽化が進む全ての高校の改修を行うのはナンセンス。もっと明確な取捨選択と統廃合計画を打ち出すべき」と主張した。
統廃合計画の基本ルールづくりのために▽校地が借地▽津波浸水域▽河川氾濫浸水区域▽土砂災害特別警戒区域―の四つの指標を挙げた。四つの指標のいずれにも該当しない高校は19校にとどまると指摘した。さらに、校舎が土砂災害特別警戒区域に当たる高校が5校あり「特に早急な検討が必要」とした。
前澤綾子教育部長(当時、現教育長)は、阿部議員が提案した四つの指標のうち、借地とハザードの状況は「既に、公立高校の在り方検討の一つの資料に含めている」と答弁。「校地の検討を行う際には、借地やハザードを重要な要素として教育面、経済面から議論したい」旨を説明した。
―統合後の高校跡地も有効活用
山田勝彦財務部長(当時)は、廃校後の校地や校舎などの活用について答弁。県や地元市町などでの公共的、公益的な活用を検討するとともに、その見込みがない場合には民間事業者に売却したり、公募で希望者に貸し付けたりして有効活用する方針を説明した。
これまでも旧静岡南高校の校舎をふじのくに地球環境史ミュージアムに改装、旧大仁高校の校舎を伊豆の国市に貸し付け、市民交流センターとして活用している。
静岡市立清水商業高校との再編に伴い閉校した県立庵原高校のグラウンド跡地では、国土交通省と静岡市が共同で道の駅を整備する計画が進められている。現在、トライアルパーク蒲原として供用し、暫定で拠点をオープンさせながら、蒲原にふさわしい機能や施設を試行していく。
