建滴 担い手不足、転機の1年に
能登半島地震の発生から1日で1年がたった。最大震度7を記録したこの地震では、金沢市内から半島の先端まで150㌔ある距離の制約、資機材や人手不足によって、応急復旧がおおむね完了するまでに100日を要した。9月には豪雨被害も発生し、1年が過ぎた今も被災地にそれ以前の日常は戻っていない。
被災直後の建設業は過酷な環境下で復旧作業に当たった。被災地には十分な宿泊施設がなく、全国から応援に駆け付けた技術者・作業員は車中泊を強いられた。携帯中継局の被災によって通信も途絶していた。
人口減少が顕著に進んでいた能登半島では、この規模の災害からの復旧に必要な人手や資機材が明らかに不足した。能登半島地震の被災地に限らず、災害対応力の弱い地域が全国に増えている。
国土交通省や建設業団体は平時の公共事業を念頭に「施工余力は十分にある」と主張する。確かに、全国的に入札不調が増加しているわけではなく、建設業が今すぐに施工余力を疑われるような状況にあるわけではない。
ただ、この先の国土強靱(きょうじん)化や災害対応を考えたとき、建設業の施工余力に不安を感じる関係者は少なくないはずだ。人口減少は、この10年で現在進行形となり、この先そのスピードが速まるのは明らかだ。
公共投資が確保されていることは、担い手確保のスタート地点に過ぎず、予算だけでこの問題が解決するわけではない。
この産業が抱えてきた休暇取得という課題は、この1年で確実に改善の方向に向かっている。昨年4月の時間外労働の上限規制適用で、公共発注者だけでなく、民間発注者の一部にも建設業の供給制約への理解が進み、週休2日対応が徐々にではあるが進んでいる。
ただ、もう一つの課題である賃金はどうか。技術者、技能者ともに賃金は上昇し続けているが、それでも十分な新規入職があるわけではない。「賃金を倍にしても採用できるかどうか」と話す経営者もいる。
賃金水準の引き上げには、抜本的な産業構造の見直しが必要ではないだろうか。労働力を抱えるリスクを回避したり、分業化・合理化を目的に定着した重層下請け構造を改善することこそ、若い人材を確保する産業へと建設業を再生する近道になるはずだ。2025年がこうした長年の課題を関係者が共有し、担い手不足の解決に道筋をつける転機の1年となってほしい。