建滴 労務単価と公共事業費 賃上げ実現に「事業量」必要

  3月から適用された公共工事設計労務単価は、全国・全職種平均で前年比6・0%の上昇となった。単価の伸び率は3年連続で5%を超え、単価が大幅に上昇した2013年4月の改訂以降で3番目に高くなっている。

 13年連続で上昇した労務単価だが、この間には伸び率が1%台に低下した年もあった。人手不足の深刻化と歩調を合わせ、単価の伸び率が高くなっている。
 物価上昇を上回る賃上げの実現を目指す石破内閣も、伸び率を6%台に乗せた新しい労務単価を重要視する。2月14日、首相官邸で開かれた石破茂首相との車座対話で、建設業4団体と国土交通省は、技能者の賃金を「民間工事を含め6%の上昇」とすることを申し合わせた。
 労務単価の上昇は、公共事業の執行にどのように影響しているのだろうか。2025年度当初予算案に盛り込まれた公共事業費は6兆0858億円で、前年度比30億円のわずかな増加だ。
 国土強靱(きょうじん)化対策のために補正予算が増額されているとは言え、当初予算の公共事業費は12年にわたって微増を続けている。記録的な物価上昇の局面にあっても、政府のこの姿勢は変わらなかった。
 資材価格の上昇によって、1件当たりの工事費は上昇している。労務単価の上昇も、単年度であれば工事費に対するインパクトは小さいが、この13年間の累計で単価は80%以上上昇している。予算が横ばいであれば、実質的に事業量が減少するのは当然だ。
 最悪の場合、工事件数の減少は競争の激化を招き、落札額が低下する恐れまである。これでは、技能者まで行き渡らせるべき賃上げの原資も、請負契約にさえたどりつけない。
 労務単価は13年4月に初めて法定福利費の個人負担分が上乗せされ、15・1%増という大幅な引き上げにつながった。社会保険加入を後押しするこの対応が、その後の労務単価の上昇基調をつくった。
 個々の工事費に十分な労務費を計上し、それをもって企業の安定経営と技能者の処遇改善を実現する。10年以上にわたって続いたこの流れは、深刻な人手不足と物価上昇というさらに大きな流れの中で、転換期を迎えているのではないだろうか。
 労務単価と物価の上昇分を確実に予算に反映して実質的な事業量を確保しなければ、持続的な賃上げを実現し、この産業に若い人材を呼び込むことはできない。