「第2の転換点」に備えを

 大企業から始まった賃上げの波が、いよいよ中小企業にも及んできた。連合がまとめた今年の春季労使交渉の集計によると、中小企業の平均賃上げ率は4・93%と前年同期を0・27ポイント上回り、1992年以来33年ぶりの高い水準。出遅れていた中小企業もついに重い腰を上げざるを得なくなった。政府も、建設業を含む人手不足が深刻な12業種の中小企業について、物価上昇より1%上回る賃上げを促す「賃金向上推進5か年計画」を策定。この流れを後押しするが、中小建設業が身の丈に合った賃上げを実現するのは容易ではない。
 建設業は公共工事設計労務単価が13年連続して引き上げられるなど、低すぎた賃金水準がここ数年でようやく他産業に見劣りしないところまで回復した。政府の計画では、省力化支援、技術者の専任義務緩和による効率化などにより、労働生産性を2024年度と比べ9%向上させる目標を掲げる。
 15年ほど前から着実に経営改善が進んできた中小建設業だが、各種調査によるとコロナ禍以降、収益性はマイナスに転じている。賃上げ、物価高が影響しており、このままでは政府目標の達成も厳しいだろう。さらに後期高齢者になるまで支え続けてくれた団塊世代が引退の時期を迎えており、現場の維持自体が危うくなってきた。
 最近の賃金上昇の動きについて、第2の「ルイスの転換点」を指摘する見方が出ている。英国のノーベル賞経済学者アーサー・ルイスが提唱した、経済発展が進むと農村などから新たな産業に労働者が供給されるが、それが止まると賃金が急上昇するという理論。日本では第1の転換点が1960年代後半に当てはまる。その後も高齢者雇用、女性の社会進出などで労働力は保たれたが、引退する大量の高齢者を補う先はなく、第2の転換点を迎えているというのだ。建設業が先行して直面しているこの状況が、産業全体に波及すれば、人の奪い合いによって賃金上昇がいっそう加速する可能性がある。
 労働人口に起因する賃金上昇の怖いところは、好不況に関わらず賃金が上がり続けることだ。人材の獲得競争に拍車がかかれば、人手不足の厳しい中小建設業は他を上回る賃金水準を求められる。その原資をどう確保したらよいのか。今起こりつつある賃上げの流れは、経済的な地殻変動の入り口に過ぎないかもしれないことも想定し、経営改善と雇用対策のギアをさらに上げる必要があるだろう。