連載『「新3K」知っていますか?』
本連載では、建通新聞社が行ったアンケート結果を踏まえ、人材育成を担う教育現場の声、建設業が一般メディアでどのように報じられてきたかを取材し、建設業界のイメージアップの道筋を探ります。
※アンケート調査は、民間調査会社が全国の小中学生の子を持つ親300人を対象に行った。内訳は男性52・3%、女性47・7%。回答者の年齢は32歳~49歳で、平均は43・3歳だった。
①「きつい、汚い、危険」いつまで 新たな“建設業の姿”伝えるには 2025/5/1
「給与、休暇、希望」の頭文字を取った「新3K」という言葉が建設業界で広く使われるようになってから、10年以上がたった。この間に賃上げや働き方改革も進展した。だが「きつい、汚い、危険」の「3K」イメージは今なお社会に根強く残っている。建通新聞社が4月に行ったアンケートは、そんな実態を裏付ける結果となった。このイメージを払しょくすることは、将来の担い手を確保する上で重要な一手となる。
建通新聞社は、小中学生の子を持つ親300人を対象に、建設業のイメージに関するアンケート調査を行った。親世代をターゲットとしたのは、小中学生が将来の職業イメージを形成する際、親の意向が進路選択に大きな影響を持つと考えられたためだ。
アンケートで建設業のイメージを「とても良い」から「とても悪い」までの5段階の評価を質問したところ、「とても悪い」「悪い」を選んだのは21・0%。「とても良い」「良い」の18・0%を上回った。
イメージが「とても悪い」「悪い」理由の自由記述を見ると、回答者の47・6%とおよそ半数が現場作業員のマナーなどネガティブな印象に言及。ただ、実際に見聞きしたとは限らず、先入観が影響したと見られる回答も散見された。
「危ないのに給料が安い」「肉体的に大変そう」といった職場環境を挙げる声や、長時間労働を理由に挙げる回答も38・1%を占めた。「きつそう」「危険」など、旧来のいわゆる3Kのイメージが残っていることをうかがわせる結果となった。
▲アンケートの集計結果
■伝わらない処遇改善
実際には、建設業の労働環境はこの10年間で大きく改善した。厚生労働省の調査では、建設業の平均給与(ボーナスを含む月額)は2015年から24年までに18・2%上昇した。この伸び率は全産業のうち「鉱業、採石業等」と「不動産・物品賃貸業」に次いで3番目に高い。
同じく厚労省の調査では、建設業の月の実労働時間は10年間で10時間以上減少したことも明らかになっている。特に、時間外労働の罰則付き上限規制が適用された24年に大幅に減少している。
給与や労働環境を含む処遇改善は、建設業界を挙げた取り組みの成果だ。だが、今回のアンケートで、こうした職場環境の好転を知っているか聞いたところ、認識していた割合は15・0%にとどまった。
■親が子の就職先に望むもの
アンケートで、子どもが建設業界への就職を希望したとき、賛成すると回答したのは55・3%。理由に関する自由記述を整理すると、「やりたいことをやればよい」「子どもの人生に口を出したくない」など、子の希望を尊重するとの回答が47・6%を占めた。社会貢献、技術・技能の習得を理由に挙げたのはいずれも15・1%にとどまった。
子の就職先を決める上で重視する要素(複数回答)についても質問したところ、最多の回答はやはり「子の希望」(69・0%)だった。次いで「職場環境」(56・0%)を挙げる回答も多かった。以下、「給与」(47・0%)、「将来性」(39・7%)、「休日」(32・3%)と続き、「社会貢献」(11・0%)が最も少なかった。
この結果をどう見るべきか。子の希望の優先は前提として、整った職場環境や給与水準を求める親が多いのは間違いない。やはり、建設業の時間外労働の削減や賃上げといった処遇改善の実態をきちんと伝えることが重要だ。
また、時間外労働も減ったとは言え、罰則付き上限規制の建設業への適用は他産業から5年遅れとなった。社会全体に浸透した週休2日も、建設業全体で見ればいまだ目指すべき目標とされているのが実情だ。
長時間労働だけでなく、危険作業や屋外環境の過酷さを懸念する声も多く寄せられた。労働安全の徹底は当然として、猛暑日の作業環境の改善は、作業効率の向上だけでなく、業界全体のイメージアップにもつながる。
■「地域の守り手」若い世代へのアピールに
建設業は東日本大震災以降、頻発・激甚化する災害での応急活動や、国土強靱化の担い手という「地域の守り手」を自らの大きな社会的役割として位置付けてきた。だが、アンケートで建設業が自衛隊とともに災害復旧活動に参加していることを知っていた回答者は24・0%にとどまった。
もちろん、災害復旧やインフラのメンテナンスといった建設業の取り組みは、社会で認知されているか否かを問わず大きな意義を持つ。また、回答の中には、子の就職希望に賛成する理由として「災害時にも活躍していると知って、イメージが良くなったから」との声もあった。
その一方、高校生の職業選択の傾向について青少年教育振興機構が23年に行った調査では、「社会貢献」を重要だとした高校生は42・4%を占めた。12年、06年調査と比べても約10ポイント高まっており、近年の若い世代の社会貢献への意識は高まっている。
建設業の社会的役割は、むしろ子ども世代へのアピールポイントと言えそうだ。今回のアンケート結果を見ても、多くの親の姿勢は子の意向を尊重するところで共通している。子どもには社会的な意義や仕事内容への関心を持ってもらい、給与や労働環境の改善で親に安心してもらうというアプローチが有効ではないだろうか。
■全ての始まりは知ってもらうこと
そもそも、多様な職種で構成される建設業について、具体的な職業イメージを持っている人は子どもだけでなく大人を含めて少ない。建通新聞社のアンケートでは、建設業のイメージについて「特にない」などの回答が全体の28・3%を占めた。普段は仮囲いで見えない建設業の仕事に触れ、小中学生の段階から関心を持ってもらうにはどうすべきか。
きっかけの一つが、小中学校と地域の企業で協力して行う職場体験活動だ。だが、文部科学省によるとコロナ禍で職場体験の開催が急減し、現在は回復の途上にあるところだという。文科省は23年、職場体験やインターンシップへの協力を全国の経済団体に呼び掛けた。この機会をとらえ、積極的に職業体験を受け入れることが、将来の担い手を増やす第一歩になる。
地域に根差した建設分野の人材育成に取り組む舞鶴高専の玉田和也教授は、「使える人の取り合いをしているままでは、建設業に将来はない」と強調する。すぐ採用につながる「特効薬」だけでなく、地道な建設業のイメージアップという「体質改善」が、産業の持続性を高めることになる。