Catch-up<2024年4月~6月号>
建設業に関わるトピックスを分かりやすく解説するコラム『Catch-up』バックナンバーです。
現道・維持工事の歩掛改正 資材基地からの移動は労働時間 2024/4/18

これまでも、朝礼や準備体操、後片付けなどは1日の労働時間に含まれるものとされ、これを除いて設定した実作業時間に基づき標準歩掛を設けてきた。しかし、路上工事のように常設の作業帯を備えることが難しい工事では、当日の工事に必要な資材を会社が管理するヤードなどから運んでくる必要がある。
国交省は、資材基地から現場までの移動時間を適切に反映するため、22年度に施工合理化調査の項目を変更した。その結果、現道・維持関係の11工種で、現場移動により実作業時間が短くなり、1日当たりの施工量が減少する傾向を確認。今回、歩掛を見直すことにした。
対象となったのは、▽舗装版破砕工▽舗装版切断工▽電線共同構工▽場所打擁壁工▽橋梁補強工(コンクリート巻き立て)▽伐木除根工▽安定処理工(バックホウ混合)▽泥水運搬工▽現場取卸工▽踏掛版設置工▽グラウトホール工-。歩掛の見直しにより、これら11工種では資材の積み込みや現場までの移動が就業時間に含まれることが明確になった。
ただ、この他の工種であっても、会社の指示でいったん事務所に集合し、それから同じ車両に乗り合わせて現場に向かう場合など、現場移動が労働時間に含まれるとみなされるケースがある。4月からは時間外労働の罰則付き上限規制が建設業にも適用されている。建設企業の使用者には適切に労働時間を把握・算定するよう、一層の注意が求められる。
厚生労働省は、時間外労働に含まれるか否かの判断の目安として、建設業向けの「Q&A集」をオンラインで公開している。それでも判断に困る場合は、労働基準監督署などへの問い合わせも可能だ。
正念場の国土強靱化 「5か年後」未だ不透明 2024/5/9

5か年加速化対策を巡っては、自然災害が激甚化・頻発化する中で対策の継続を求める地方自治体の強い期待を受け、昨年6月に改正国土強靱化基本法が成立。事前防災やインフラの老朽化に中長期的な見通しを持って取り組めるよう、政府が「国土強靱化実施中期計画」を策定することが法的に位置付けられた。
しかし、改正法成立から間もなく1年がたつ今も、中期計画が策定される見通しは立っておらず、事業規模も決まっていない。
5か年加速化対策によって、政府の公共事業費には、初年度の20年度に国土強靱化関連で約1兆7000億円を積み増し、翌年度以降も1兆3000億円を超える予算をいずれも補正予算で上乗せしている。ただ、対策の事業費は23年度までに国費ベースで80%以上を予算措置しており、このままでは最終年度の予算措置が過去4年の平均を下回る可能性がある。
5か年加速化対策では、河道掘削や護岸改良などの事業が進み、全国で大雨からの被害を軽減した効果が確認されている。あらゆるインフラに被害をもたらした能登半島地震もその例外ではなく、加速化対策によって整備されたインフラが、被害の軽減や住民の避難活動を支えた。
記録的な物価上昇の中で、政府予算が前年度を下回ることになれば、こうした事業が停滞し、自然災害から国民の生命・財産を守ることもままならなくなる。
建設業界側も危機感を強めている。日本建設業連合会(日建連)の宮本洋一会長は、4月の総会後の会見で、「5か年加速化対策の終了を待つことなく、早期に中期計画を策定し、現行以上の予算額を確保するべきだ」と語気を強めた。日建連は25年度の予算編成が始まる6月までに、政府・与党の関係者に計画の早期策定を働き掛けるとしている。
“クラウディングアウト”問答、再燃 「人手不足」論が見えなくするもの 2024/5/31

クラウディングアウトが以前に取りざたされたのは、政府の2015年度当初予算編成に向けた方針を議論する経済財政諮問会議でのことだ。リーマンショックに伴う景気後退で落ち込んだ民間投資が回復し、公共投資の減少が底を打ったタイミングでもあった。工事に必要な人手が取られるとして、民間議員が「公共投資については優先度の高いものに重点化すべき」と訴えた。
現在の状況はどうか。確かに、ハローワークでの職業紹介状況を見ると、建設業の技術者・技能者のいずれも有効求人倍率は5倍超と高止まりしている。建設物価調査会の調査では、建設投資への意欲は高いものの、物価高や人手不足を背景に、時期を後ろ倒しにするとの意向も見られた。
だが、改めて目を向けたいのは、以前クラウディングアウトが話題となった10年前から現在に至るまで、建設投資額(名目値)は政府、民間のいずれも伸びたという点だ。本当にクラウディングアウトが起こっているのであれば、政府投資の伸びと相反するように民間投資が抑制されるはずではないだろうか。そもそも、土木を中心とした政府投資が、建築主体の民間投資の人手に大きく影響を及ぼすことは考えづらい。
今回の財政審の建議では、公共事業費の増加だけでなく、公共工事設計労務単価の上昇についても、クラウディングアウトにつながらないよう留意が求められた。だが、設計労務単価は賃金実態に基づいて定められるものだ。民間投資においても適正な労務費の転嫁を急ぎ、現場で働く人の処遇を改善してこそ、人手不足の解消が進むはずだ。
国土強靱化や経済活動を支えるインフラ整備は、民間投資を後押しする効果もある。必要な事業を進めるため、官民で人を取り合う構図にとらわれるのではなく、建設業界に人を呼び込むことに知恵を使いたい。
CO2を埋めて脱炭素化 CCS事業法が成立 2024/6/25

CCS(カーボンダイオキシン・キャプチャー・アンド・ストレージ)は日本語で二酸化炭素の回収・貯留を意味する。製鉄所やセメント工場、ゴミ焼却施設、火力発電所などCO2排出量が多い産業分野で、排出ガスが大気中に放出される前に、CO2を分離・回収し、圧縮してパイプラインなどで地下深くの安定した地層に送り込み、貯留する。
CO2を貯留する場所は地上から1000㍍以上深くにある隙間が多い多孔質の地層。CO2を分離する設備の他、地下深くを掘削し、パイプラインを敷設する大規模な工事が必要となる。
経済産業省などは12年から、北海道苫小牧市で日本初の実証プロジェクトを行った。4年間をかけて建設した設備には約300億円を投資。16年4月から19年11月までの3年半の間に累計30万㌧のCO2を圧入した。
18年に起きた北海道胆振東部地震でもCO2が地上に漏れた様子は見られず、貯留技術は災害にも強いことが分かった。
一方、CO2の分離・回収技術のコストが高いのが課題だ。分離方法には化学吸収法(アミン吸収法)、物理吸着法、膜分離法などがあり、化学吸収法を用いた苫小牧CCS事業では、CO2の回収から貯留までのコストが1㌧当たり1万円を超えた。
経産省は今後、大企業を中心にCCS事業の導入を進め、分離・回収コストを低減する新技術の開発と検討に力を入れるという。また、モデルとして3~5事業を支援し、30年までに年間貯留量600万~1200万㌧を確保する。50年には20~25事業に拡大し、年間貯留量約1億2000万~2億4000万㌧を目指す。
5月に成立した新法では、事業開始の流れと事業者の義務を定めた。経産相が貯留可能な特定区域を指定し、事業者を公募。事業者は、試掘や貯留事業の具体的な実施計画を策定し、認可を経て事業を開始する。
事業者には貯留層のモニタリングによるCO2漏えい防止の他、技術基準適合義務、工事計画届出、保安規定策定などを課す。